―― 岡 田 自 観 師 の 論 文 集 ――

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家庭菜園と無肥料栽培

『救世』63号、昭和25(1950)年5月20日発行

 無肥栽培である本農法が、家庭菜園に対してもいかに大なる福音であるかを、概略かいてみるが、家庭菜園はもちろん米麦のごとき、穀類は一切作らず、ほとんど野菜ばかりであるといってもいい、従って、肥料としては人糞を主とし、塵芥(じんかい)、魚屑、木灰、馬糞、鶏糞等種々雑多なものであるが、特に一番多く用いられるのは、何といっても人糞であろう。
 何しろ、百姓の経験のない素人が人糞を扱うのだから、その苦痛は大変である、しかも施肥後その臭気は相当期間室内に流れ込み、食事の楽しみなども減殺され、常に不愉快極まるのは並大抵ではない、なるほど、人糞が有効であるなら致し方ないが、実は、人糞がいかに作物に有害であるかは、二、三の例を挙げてみればよく判るのである、よく素人が歎声を漏らす事は、トマトや豆類等の花落が多く、実りが悪いとか、馬鈴薯の芋つきが少ないとか、全然芋がつかないとか、葉枯れ、茎折れ等は元より、害虫の被害なども常に悩みの種であろう、ところが、右の原因はことごとく人糞のためであって、それを今日まで知らなかったのである、しかもその成績不良の場合、肥料不足のためと思い、益々肥料を多くするから逆効果となり、不良はいよいよはなはだしくなるというのが今日の実状である、それでやむを得ず、専門家に訊くのであるが御承知の通り、専門家も肥料迷信に陥っているから堪らない、いわくそれは肥料の種類、適量、施肥の季節、酸性土壌に因るため等々、全然的外れの応答をしてお茶を濁すのである、嗚呼、何と驚くべき誤謬ではあるまいか。
 ところが、我無肥栽培によれば、何より助かるのは人糞を用いない事であるのみか他の肥料も必要がない、ただ堆肥だけで充分であるにもかかわらず、その成果たるや素晴しいのである、それをザッと列記してみよう。
(一)前述の通り、不快な人糞を初め、肥料を要しない事
(二)従って、寄生虫病の心配が全然無くなり、清潔で気持のよい事
(三)花落ち、茎折れがなく、強靭であるから栽培しやすい事
(四)害虫発生がないから、消毒費その他の手数も要らず経済的である事
(五)収穫量が非常に多くなるから、狭隘(きょうあい)な場所でも事足りる事
(六)無肥の野菜の美味なる事は驚く程で、もちろん栄養価値も高い事
 右のごとく、数え上げればまだまだあるが、要するに、無肥栽培の成果を知るとしたら、いかに生活の楽しみが増すかは恐らく経験者のみが知る特権であろう、何よりもまず直に実験する事だ、その場合心得ておかなければならない事は、種子も土壌も、相当肥毒を食っているから、肥毒の抜け切るまでは相当期間著しい効果は見られない事である、といっても野菜の種類によっては、最初の年から良成績を挙げるものもあり、二年目三年目と順次よくなるのであるから、肥毒が皆無となってからの成績こそ、何人(なんぴと)も驚嘆するであろう。