―― 岡 田 自 観 師 の 論 文 集 ――

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主観と客観

『救世』54号、昭和25(1950)年3月18日発行

 人間は、処世上とかく主観に捉われ勝ちで、特に女性に多いのは事実である、この主観に捉わるる事は、最も危険である、というのは自己の抱いている考え方が本当と思って自説を固執すると共にその尺度で他人を計ろうとする、それがため物事がスムーズにいかない、人を苦しめるばかりでなく自分も苦しむ。
 右の理によって、人間は絶えず自分から放〔離〕れて自分をみる、すなわち、第二の自分を作って、第一の自分を常に批判する、そうすればまずまず間違いは起らないのである、これについて面白い話がある、それは、昔万朝報という新聞の社長であり、また翻訳小説でも有名であった黒岩涙香(くろいわるいこう)という人があった、この人は一面また哲学者でもあったので私はよく氏の哲学談を聞いたものである、氏の言葉にこういう事があった、それは人間は誰しも生まれながらの自分は碌な者はない、どうしても人間向上しようと思えば新しく第二の自分を造るのである、いわゆる第二の誕生である、私はこの説に感銘してそれに努力し少なからず稗益(ひえき)した事は今でも覚えている。

(注)
万朝報(よろずちょうほう)、「まんちょうほう」ともいう。黒岩涙香が明治25年に創刊した日刊紙。
黒岩涙香(くろいわるいこう)、高知県生まれ。ジャーナリストとして数々の新聞で活躍後、独立して「萬朝報」を創設し主筆として力を発揮した。また海外の小説の翻訳家としても有名で、「嘸無情」「鉄仮面」「厳窟王」など翻訳で知られる。