―― 岡 田 自 観 師 の 論 文 集 ――

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天国篇・ミロクの世の実相

『栄光』137号、昭和27(1952)年1月1日発行

 左記の論文は文明の創造中から、新春にふさわしいものとして載せたのである。

   天国篇

 私は科学篇、宗教篇を次々かいて来たが、これから最後の天国篇をかくのである。しかしこの所論は真の意味における前人未説のものであって、文明世界設計の根幹ともなるものであるから、そのつもりで読んで貰いたいのである。しかし初めてこれを読む人は、現実とあまりに懸け離れた理想論としか思われまいが、決してそうではない。立派な実現性のある事は、読むに従って分かるであろう。そもそも、主神の御目的である地上天国を建設する基本条件としては、何よりも大自然の実相そのままを表わす事である。というのはいつも言うごとく、宇宙一切の構成は、日月地が根本となっており、この本質が火水土であるから、この三位一体の力によって、万物は生成され、化育され、世界は無限の発展を遂げつつあるのである。ところが今日までの霊界は、しばしば説くごとく夜であったがため、日は隠れていたのである。つまり月土日の順序となっていた。無論これは正しい順序ではないから、これまでの世界は一切に調和が欠け、紊れに乱れて、現在見るがごとき地獄世界を現出したのである。これというのも善と悪についてさきに説いたごとく、善悪の軋轢(あつれき)が必要であったからで、全く深甚(しんじん)なる神意に外ならないのである。その期間中わずかに宗教によって緩和されて来た事もかいたが、全く釈尊の唱えた苦の娑婆と諦めの言葉も、キリストの贖罪と隣人愛もその意味に外ならなかった。
 ところで私の唱える夜の世界が、昼の世界に転換するという事であるが、本来宇宙の原則としては、日月地の三段階が正しい順序であるにかかわらず、そうでなかったのは前述のごとき意味であったからで、それが今度いよいよ完全の形となるのである。言わば世界は百八十度の転換であって、実に空前の一大異変である。従って現在の文化形体も一変するのはもちろん、その大綱としては、前述のごとき大自然の形となる以上、一切の機構も三段階になり、分かれて六となり、また分かれて九となる、つまり三六九で、これを縮めればミロクとなる。地上天国一名ミロクの世とはこの事である。ではミロクの世とは具体的にはどのような世界であるかを、順次説いてみよう。

   ミロクの世の実相

 これをまず国際上から説明してみるが、世界各国の国境は、現在のままではあるが、実質的には撤廃されたと同様になるのである。つまり隣国に対する権力は平等となる以上、侵略などは絶対なくなるというよりも、侵略の必要がなくなるのである。ここで侵略について少しかいてみるが、今日までは侵略にも止むを得ざるそれと、そうでない侵略との二つがあった。前者の方は例えばある一国の人口が益々殖えるので、国土が狭くなり、ために過剰人口のはけ口を求めなければならないが、それを快く受け入れる国がないとしたら、どんな手段によっても、そうしなければならない事になる。ここに戦争にうったえざるを得ないのであるが、ミロクの世になれば、そういう事情は絶対起らない。というのは世界には広漠(こうばく)たる原野を抱えて、人口稀薄の国はいくらでもあるから日本のごとく国土狭く、人口過剰な国家があるとしても、簡単に解決されるのである。それは世界議会があって、いかなる問題でも、慎重審議の上可決する。もちろん今日のごとき自国本位の、我利的根性など全然ないから、いかなる法案も正しいものである以上、円満に成立するのはもちろんで、一ヵ年何万人でも、過剰人口はそれぞれの国家へ公正に配分され、争いの余地などあり得ないのである。これがミロクの世の世界議会であるが、しかしそうなっても各々の国には、その国の国会もあるにはあるが、今とは違い議員の素質も立派で、自利的観念を棄て何事も世界的人類愛的に解決する。従って現在の議場のごとき、甲論乙駁(こうろんおっぱく)、喧々諤々(けんけんがくがく)〔喧喧囂囂〕たる場面などは更になく、何事も説明だけで、和気藹々(わきあいあい)裡に即決されてしまうので、時間なども今日の十分の一にも足りないであろう。そのような訳で会期も三月に一回くらいで、一回の日数は半日ずつ三日くらいで済むであろう。
 これにも理由がある。それは法律というものが非常に少なくなる。いうまでもなく法律なるものは善人には必要がなく、悪人に対してのみの必要品であるからで、悪人のない世界となれば、そうなるのは当然である。このような議会を頭において、現在の議会を見たならどうであろうか、忌憚なく言えば文化的野蛮人の集合場といってもいいであろう。
 ここで世界議会の事を別の面からかいてみるが、近来アメリカにおいて、唱導されている世界国家というのがそれであって、この説が出たという事も、ミロクの世の近まっている示唆であろう。そうして世界議会とは、今日の議会を世界的に拡げたものと思えばいい。もちろんその中心の首脳者こそ、今日の大統領と同様で、すなわち世界大統領が出来るのである。この任期は三年であって、もちろん世界各国の議員の中から銓衡員(せんこういん)が選ばれ、大統領を選ぶのであるが、その議員はその国の人口数に割当てられる。つまりこれが世界議員である。
 それから今一つの後者の侵略者であるが、その時代はもはや世界各国は武力がないので、戦争は不可能となり、前述のごとくすべて合理的平和的に、人口調節が出来る以上、これをかく必要もない訳である。

(注)
喧々諤々(けんけんがくがく)「けんけんごうごう(喧喧囂囂)」と「かんかんがくがく(侃侃諤諤)」とが混同されてできた語、大勢の人がくちぐちに意見を言って騒がしいさま。