―― 岡 田 自 観 師 の 論 文 集 ――

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欲張ったヨクのない人

『救世』49号、昭和25(1950)年2月11日発行

 今ここにかく、ヨクナイ人間というのは善くない人間の事ではない、欲ない人間の事であるというとちょっと変に思うであろうが、以下の説明によって誰しもなるほどと思うであろう。
 つくづく今日の社会をみると、欲張りの人間は山程あるが、実をいうとそれらはことごとく欲のない人間ばかりである、欲張りでヨクのない人間とは変だが実は一時的に儲けようとするだけで、その先は損をする事に気が付かないのである、というのは最初嘘で固めたうまい事をいうが、嘘は必ずバレるから、そこで信用は零となる、但し嘘も巧妙につくほどバレるのがおそくなるからその時は俺はうまい事をしたと思うのであるが、嘘はいつかバレずに済むはずはない、ところが彼らは永久にバレないように錯覚してしまうので性懲もなく一生懸命人を騙そうとする、もちろん世の中には神様などあるものかと、彼らは信じない、すなわち唯物思想で固まっているからで始末が悪い、ところがバレるが最後信用は一ぺんに吹飛んでしまうから、それでお仕舞になってしまう、という訳で大変な損になる、それがため最早こっちでは相手にしない事になる、そういう時つくづく想う事は、彼らが最初から真正直で誠実にやったら、今頃は信用がついて実に大きな利益となるのは必定で、僅かの間うまい事をしただけで、それでお終いとは、何と欲のない奴かと惜しむのである、したがって、この手合こそ、実に欲のない人間という事になるのである。
 今日、事業の不振や金詰りに困っている人の大方は、右のようなヨクない人が多いのである、とにかく人間は信用第一である、信用ほど大きな財産はない、信用財産からは何程でも利子が生まれるので金詰りの世の中でもこういう財産家は、決して困るような事はないのである、という訳でどうしても見えざる神の存在を信ずる人間にならなくては何をやっても駄目である、それには信仰者になるより外ないのである、ゆえに信仰者は無限の宝の持主で、これが真の幸福者であると共に最も欲の深い人である。