悪人をひねる

『栄光』144号、昭和27(1952)年2月20日発行

　この題を見た人は、随分変な題と思うだろうが、こうかくのが一番適切と思うからである。では一体どういう意味かというと、今まで私を騙そうとしたり、一杯食わそうとするよからぬ人間が、世の中に余りにも多いからでもっとも私が宗教家であり、善人らしく（らしくじゃない、全く善人なんだが）仏様のように見えるらしいので、舐（な）めてかかるのである。そういう輩は奸智、邪智に長けていて凄い企らみをする。そうかと思うと社会的地位のある人間などで、図々しい押しの強い人間もよくあるが、この手合は最初から私を蟒蛇（うわばみ）のように呑んでかかるが、そういう場合私は一旦は呑まれておいて、徐（おもむ）ろに対策を立てる、といっても別段変ったやり方ではなく、至極真面目に平々凡々たるものであるから、彼らも気が付かず、いい気になって図に乗り、喰い込んで来る。しかし私は肝腎な急所だけはギュッと抑えておって、後は先様の思い通りにさせていると、彼らは色々やってみるがどうも思うようにゆかないので、諦めてしまいそうだが、仲々諦めない。反って岡田の奴もう往生しそうなものだ、そろそろ妥協を申入れて来そうなものだと待っているが、私の方は落着き払って放っといたまま、知らん顔をしているので先方はどうする事も出来ず、運動費は使い果し、段々彼らの方が不利となり、焦り出す程なお悪くなって、結局往生してしまうという事がよくある。そうかと思うとシタタカ者は巧妙な手段をもって、私から金を引き出そうとし、計略を廻（めぐ）らし、執拗にあの手この手で喰下って来る。つまり彼らの考えでは、メシヤ教は金があるし、本尊の教主はいわゆる生神様同然で世相に暗いだろうから、いずれは相当金を出すに違いない。また少しくらい損をかけても、面倒だからと諦めてしまい、裁判沙汰などにする事はないと多寡を括（くく）っている。ところが私としては先方の肚がチャンと見え透いているから、裏の裏をかいたり、逆手を打ったりするので、先方は当が外れ、手も足も出なくなり、結局骨折損の草疲（くたびれ）儲けとなるので、お気の毒様でも何でもないという訳である。
　こういう事をかくと、明主様は宗教家に似合わず、まことに無慈悲なように思うかも知れないが、神様からいうとそれでいいのである。本来神様の御心というものは、善は飽くまでも御助けになるが、悪は寸毫といえども容赦されないのである。これも私がいつもいう通り、悪に勝たねばいけないというのもこの意味である。またよくある言葉に、あいつは食えないというが、この言葉の裏には悪い意味が含まれており、その反対はあいつは善人だが役に立たないという意味でもある。そうしてみると悪人は食えない奴と相場は決っているようだが、実は私はその食えない奴よりも一倍も二倍も食えない人間と思っている。それが真の善人であり、これでなくては悪い世の中を善くする事は出来ないのである。という訳で私は世の中の悪人という悪人は、片ッ端からひねる方針にしている。これが生きた宗教家の在り方と思うからである。