―― 岡 田 自 観 師 の 論 文 集 ――

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科学の力

『信仰雑話』P.49、昭和23(1948)年9月5日発行

 現代人は、いかなる問題といえども科学によって解決せられざるものはないようにいい、科学は万能薬のように思われているに対し、私は質問したいのである。それは道徳は、芸術は、恋愛は、科学によって解決出来るだろうかという事である。今かりに科学によって道徳上の問題が解決出来得るとすれば、最も科学教育を受けたところの、最高学府を出た人士は、道徳的に優れていなければならないにかかわらず、涜職、破廉恥等の犯罪も少なくない事実をみれば、科学は道徳的には微力である事を物語っている。
 次に芸術であるが、これはまた意外である。科学の進歩せる今日の美術家の作品をみるとき、数百年以前の同じ美術家の作品と比べて、科学を知らないその時代の作品のほうが、数段優れている事実を発見し、私はつねに驚嘆するのである。
 ここに最もおもしろいと思う事は、男女間の恋愛であるが、これは科学的にいかに解釈するかである。以上のごとき三大問題は、人生に対し最も解決を要すべき重大問題であろう。なる程、科学は唯物的には人類に対し、偉大なる貢献をなしつつあり、ますますその発展を要望してやまないが、前述のごとく、科学によって解決不可能の問題も相当あり、これこそ宗教が分担すべきものではなかろうか。ここにおいて私はおもう。この両者の一致的進歩こそ、真の意味における人類文化の向上であろう事を。

(注)
涜職(とくしょく)職を汚す事。汚職。