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明光本社第47回月並和歌 15首 昭和5年11月14日
   「明光」53号 S 6. 1. 1    もみぢ
くしびなる かみのみょうぎのやまもみじ いわねつづりてにしきおるなり
奇しびなる 神の妙義の山紅葉 岩根つゞりて錦織るなり
    「明光」53号 S 6. 1. 1    もみぢ
たがための こころづくしやあきひめの かざるもみじのやまびょうぶわも
誰が為の 心づくしや秋姫の かざる紅葉の山屏風はも
    「明光」53号 S 6. 1. 1    もみぢ
かむさびて おぐらのやまのふかもみじ ゆうひとどめてくれがてのいろ
神さびて 小倉の山の深紅葉 夕陽とゞめてくれがての色
    「明光」53号 S 6. 1. 1    もみぢ
たにがわの こけむすいわもくれないに さすこもれびにうつるもみじば
渓川の 苔むす岩もくれなゐに さす木もれ陽にうつるもみぢ葉
    「明光」53号 S 6. 1. 1    もみぢ
もえぬれど みやまのもみじそまのほか みるひともなくちるはつるかな
燃えぬれど 深山の紅葉杣の外 見る人もなくちりはつるかな
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
まつのはの かぜにさゆれてさやさやと つきのおもてをはくぞすがしも
松の葉の 風にさゆれてさやさやと 月の面を掃くぞ清しも
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
おおみわざ くにのみやこへうつしよも つきてるあきのはじめなりけり
大神業 国の都へうつし世も 月光る秋の初めなりけり
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
あまつひの みくにのかたもすみだがわ ながるるみやこにいづのめのわざ
天霊の 神国の型もすみだ川 流るゝ都にいづのめの業
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
とこはるの みよひらかんとこのはなの ひめあもりますあきつしまぐに
常春の 神代ひらかむと兄の花の 姫天降ります秋津島国
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
とおみえて ちかくもあるかなつきとひの ひかりにすすむかみのおおじは
遠見えて 近くもあるかな月と日の 光りに進む神の大道は
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
あきさめに くれないのはなほろほろと ちるいけのもにはぎのえのかげ
秋雨に 紅の花ほろほろと ちる池の面に萩の枝のかげ
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
かみのみち みもたなしらにすすむいま こいもみょうりもゆめとなりけり
神の道 身もたなしらに進む今 恋も名利も夢となりけり
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
とりがなく あずまのさとにほのぼのと ひいづるあきのあしたさやけし
鶏が鳴く 東の里にほのぼのと 日出づる秋の朝さやけし
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
ひんがしの いすずのかわかむかしより にごりをしらぬむさしたまがわ
東の 五十鈴の川か昔より 濁りを知らぬむさし玉川
    「明光」53号 S 6. 1. 1    雑 詠
 かみぐにの みやこをうつしよをはらす ひかりはあいのぜんにありけり
神国の 都をうつし世をはらす 光りは愛の善にありけり
明光本社第48回月並和歌 昭和5年12月25日
    「明光」54号 S 6. 2. 1    旅
ゆきくれて やまじにかかるひとりたび ゆくてにうれしつきはのぼれり
ゆきくれて 山路にかゝる一人旅 行く手にうれし月は昇れり
    「明光」54号 S 6. 2. 1    旅
くさまくら ひとりねるよはせんでんの たびにもおもうふるさとのつま
草枕 一人寝る夜は宣伝の 旅にも思ふ故郷の妻
    「明光」54号 S 6. 2. 1    旅
ばんゆうに みさちたまいつきみいゆく みあとをしたうよものくにびと
万有に 御幸賜ひつ貴美いゆく 御跡を慕ふ四方の国人
    「明光」54号 S 6. 2. 1    旅
うきものと たがいいにけんたびまくら ねながらにみるふじのいただき
憂きものと 誰が言ひにけむ旅枕 寝ながらに見る富士の頂
    「明光」54号 S 6. 2. 1    旅
くさまくら たびをかさねてふるさとの つまあたらしくおもうゆうぐれ
草枕 旅をかさねてふるさとの 妻新しくおもふ夕ぐれ
明光本社第48回月並和歌 昭和5年12月24日
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
とうほうの ひかりはあまつひだかみの くにばらわけてのぼりそめけり
東方の 光は天津日高見の 国原分けて昇り初めけり
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
ちらちらと すすきのほなみそよぐまを つきににおえるむさしたまがわ
ちらちらと 薄の穂波そよぐ間を 月に匂へるむさし玉川
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
やすがわの うけいのときもつきのかみ ひのかみてらすにしひがしかな
八洲河の 誓約の時も月の神 日の神照らす西東かな
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
あからけき ちこくのおしえいまもなお ひかるみことのいともかしこし
明らけき 治国の教今もなほ 光る御勅のいとも畏し
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
けんこくの むかしをいまにほほでみの みことのつるぎにひらくあしはら
建国の 昔を今に火々出見の 命の剣にひらく葦原
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
とことはの かみよのかがみとしらうめの いちりんあずまににおいそめける
永遠の 神代の鏡と白梅の 一輪東に匂ひ初めける
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
みるひとの こころのままにうつせみの よにおうしんのみそみたまかな
見る人の 心のまゝにうつせみの 世に応身の三十三魂かな
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
いかならん しんぴやどすかひとつぼし つきにそいつつてんわたりゆく
如何ならむ 神秘宿すか一つ星 月に添ひつゝ天渡りゆく
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
むさしのの なごりとひとむらほすすきの うらさびしげにあきをささやく
むさし野の 名残りと一むら穂薄の うらさびしげに秋をさゝやく
    「明光」54号 S 6. 2. 1    雑 詠
もものみは たまとひかりてよみのしま ひらさかたかくやみてらすいま
桃の実は 玉と光りて黄泉島 比良坂高く闇照らす今

明光本社第48回(其二)月並和歌 昭和5年12月28日
    「明光」55号 S 6. 3. 1    木 枯
せいじゃくの ふゆのてんちはくさもきも ねむりてひとりこがらしのふく
静寂の 冬の天地は草も木も 眠りてひとり木枯の吹く
   「明光」55号 S 6. 3. 1    木 枯
くものえに つきのくにとててんおんの みそのにしらぬこがらしのかぜ
雲の上の 月の国とて天恩の 神苑にしらぬ木枯の風
    「明光」55号 S 6. 3. 1    木 枯
こがらしは ほゆるがごとくおとたてて おちばのつぶてまどたたくなり
木枯は 吼ゆるが如く音たてゝ 落葉のつぶて窓たゝくなり
    「明光」55号 S 6. 3. 1    木 枯
あたたかき まどいのへやのよはふけて そとはしきりにこがらしのふく
暖かき まどゐの部屋の夜は更けて 外はしきりに木枯の吹く
   「明光」55号 S 6. 3. 1    雑 詠
つきひとつ ほのかにうけるありあけの そらをのこしてきりたちこむる
月一つ ほのかに浮ける有明の 空を残して霧たちこむる
    「明光」55号 S 6. 3. 1    雑 詠
ただよえる うろこのくもにひのはえて まばゆきばかりあかねさすそら
たゞよへる 魚鱗の雲に陽の映えて まばゆきばかり茜さす空
   「明光」55号 S 6. 3. 1    雑 詠
いくたびか ゆきとたたかいしもにかち さきいでにけんしらうめのはな
いく度か 雪とたゝかひ霜にかち 咲きいでにけむ白梅の花 
    「明光」55号 S 6. 3. 1    雑 詠
かぎりある からたまなれどそうねんは うちゅうのそとまでとどくひとかな
かぎりある 身魂なれど想念は 宇宙の外までとゞく人かな
    「明光」55号 S 6. 3. 1    雑 詠
あおじろき つきのひかりにしもさえて はやしのよるはしずかにふけゆく
青白き 月の光に霜さえて 林の夜は静かにふけゆく
   「明光」55号 S 6. 3. 1    雑 詠
こんとんの たいこおもえりあさぎりに うかべるふじのおおいなるかげ
混沌の 太古想へり朝霧に 浮べる富士の大いなるかげ
    「明光」55号 S 6. 3. 1    雑 詠
きゅうせいの かみのみわざもくにとくに ひととひととのわごうなりけり
救世の 神の御業も国と国 人と人との和合なりけり
明光本社第50回月並和歌 昭和6年3月5日
    「明光」56号 S 6. 4. 1    新 潮
たごのうら なみもゆたかにたいへいの つづみうちつつよせくるにいしお
田子の浦 波も豊かに太平の 鼓うちつゝよせくる新潮
    「明光」56号 S 6. 4. 1    新 潮
にいしおを まつまのかなたもやいする ふねにかかれるあさぎりのしめ
新潮を 松間の彼方もやひする 舟にかゝれる朝霧の七五三
    「明光」56号 S 6. 4. 1    新 潮
わだのはら としたつけさはあたらしく わくかとみゆるしおのいろかな
和田の原 年たつ今朝は新らしく 湧くかと見ゆる潮の色かな
    「明光」56号 S 6. 4. 1    新 潮
ひたひたと にいしおよせてほがらかに あかしがはまのけさしずかなる
ひたひたと 新潮よせてほがらかに 明石ケ浜の今朝静なる
   「明光」56号 S 6. 4. 1    雑 詠
らんまんと はなさくはるのせいめいを ひめてしじまにあらがねのつち
爛漫と 花咲く春の生命を 秘めて無言にあらがねの地 
    「明光」56号 S 6. 4. 1    雑 詠
みちとせの ちかいもいましときつかぜ ふくしんえんにわらうしらうめ
三千年の 誓ひも今し時津風 吹く神苑に笑ふ白梅
    「明光」56号 S 6. 4. 1    雑 詠
たたかいも おわりとなりていづのめの かみはしょうりのみやこにあもれり
たゝかひも 艮となりていづのめの 神は勝利の都に天降れり
    「明光」56号 S 6. 4. 1    雑 詠
ほねもみも くだくるばかりこのころの みわざせわしくなりしわれかな
骨も身も くだくるばかりこの頃の 神業せはしくなりし吾かな
    「明光」56号 S 6. 4. 1    雑 詠
いかならん なやみもいつかしろたえの ころものそでにときのかみかな
如何ならむ 艱みもいつか白妙の 衣の袖に時の神かな
   「明光」56号 S 6. 4. 1    雑 詠
あかきみの つぶらあおばのかげにもえ おもとのうえにしらゆきのつむ
赤き実の つぶら青葉のかげにもえ 万年青の上に白雪のつむ 
昭和6年5月集
    「明光」57号 S 6. 5. 1    信仰の味
ひとをすくうおもしろさがわかったときは まずじぶんのこころがすくわれている
人を救ふ面白さが解つた時は まづ自分の心が救はれてゐる
    「明光」57号 S 6. 5. 1    信仰の味
おれはしんこうをあじわうのだ かみのめぐみのかんろをたましいのしたで
俺は信仰を味ふのだ 神の恵の甘露を魂の舌で
    「明光」57号 S 6. 5. 1    信仰の味
しんこうのきょくちはせいかつのみかくだ おおもとのおしえこそたまらぬあじだ
信仰の極致は生活の味覚だ 大本の教こそたまらぬ味だ
    「明光」57号 S 6. 5. 1    信仰の味
あまりにもごかいされたことばに ばくはつてきにわらったおれだ
余りにも誤解された言葉に 爆発的に笑つた俺だ
    「明光」57号 S 6. 5. 1    信仰の味
しんせつなこういもせつめいいりだと ありがたさがはんぶんになるらしい
深切な行為も説明入りだと 有難さが半分になるらしい
明光本社第51回月並和歌 昭和6年4月1日
    「明光」57号 S 6. 5. 1    春
さしかわす えだのしんめのにおいして はるのはやしのなつかしきかな
さし交す 枝の新芽の匂ひして 春の林のなつかしきかな
    「明光」57号 S 6. 5. 1    春
うすがすむ かわもしずかにあおやぎの なみきのかげをしらほゆくなり
うす霞む 川面静かに青柳の 並木のかげを白帆行くなり
    「明光」57号 S 6. 5. 1    春
れんげさく あたりおとめらたむろして かすみよそおうはるげしきかな
紫雲英咲く あたり乙女等たむろして 霞粧ふ春景色かな
    「明光」57号 S 6. 5. 1    春
はるのひの かがやくそらのしたにたち あおげばいきのよろこびあふるる
春の陽の かがやく空の下に立ち 仰げば生きの喜びあふるる
    「明光」57号 S 6. 5. 1    春
はるされど はなにようよりよをさます かみのみわざのたのしかりける
春されど 花に酔ふより世をさます 神のみ業のたのしかりける
    「明光」57号 S 6. 5. 1    雑 詠
げいじゅつの はなうつくしくさくところ ちじょうてんごくさいおうのその
芸術の 花美しく咲くところ 地上天国最奥の苑
    「明光」57号 S 6. 5. 1    雑 詠
えいこうの くものうえよりかがやきて あてのみやこにいづのめのかみ
栄光の 雲の上よりかがやきて 貴の聖都にいづのめの神
    「明光」57号 S 6. 5. 1    雑 詠
にょいほうしゅ おんてにたかくさんがいの うずのみくらにいづのめのかみ
如意宝珠 御手に高く三界の 珍の御座に伊都能売の神
    「明光」57号 S 6. 5. 1    雑 詠
とうほうの ひかりとなりていづのめの かみにはくしらまなこさまさん
東方の 光りとなりて伊都能売の 神に博士等眼覚さむ
    「明光」57号 S 6. 5. 1    雑 詠
たまかがみ つるぎのいとくにりくごうを きいつしすぶるひのもとのかみ
玉鏡 剣の威徳に六合を 帰一し統ぶる日の本の神
    「明光」57号 S 6. 5. 1    雑 詠
はるまだき のやまのきぎをさまさんと きてはしきりにむらすずめなく
春まだき 野山の木々を覚さんと 来てはしきりにむら雀啼く
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
あめはれて つゆまだのこるたかむらの したかげあおくさくこけのはな
雨はれて 露まだ残る篁の 下かげ青く咲く苔の花
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
あおあおと ばしょうのひろはにあおがえる さゆるぎもせずあめにぬるるも
青青と 芭蕉の広葉に青蛙 さゆるぎもせず雨に濡るるも
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
さみだれの はるるとみればおちかたに くものみねたちなつはきにけり
五月雨の 霽るると見れば遠方に 雲の峰立ち夏は来にけり
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
かかなべて ふるさみだれにみずまして さとのおがわにこらのすなどる
かかなべて 降る五月雨に水増して 里の小川に子等の漁る
   「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
しげりあう このしたやみにさきいでし しらゆりのはなことにめぐしも
茂り合ふ 木の下闇に咲き出でし 白百合の花殊に愛ぐしも
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
たうえかの どこかにながれてしずがやの なかにひとけのみえぬまひるま
田植歌の どこかに流れて賤が家の 中に人気の見えぬ真昼間
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
ゆうさりて あおたをわたるかぜきよく ゆくてかすめてほたるとびけり
夕さりて 青田を渡る風清く 行手かすめて蛍とびけり
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
しんりょくの きのかをのせてあたらしき きぬのそでふくかぜすがすがし
新緑の 樹の香をのせて新しき 衣の袖ふく風すがすがし
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
いけのもに うつるまつかげさやかにて こずえにかかるしんげつのかげ
池の面に うつる松影さやかにて 梢にかかる新月の光
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
たそがれて やまかげくろくうみのもに うつるとみればつきかげほのめく
たそがれて 山影黒く湖の面に うつると見れば月光ほのめく
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
かぜかおる あおばのひかるはつなつは はなにあきたるめにここちよき
風薫り 青葉の光る初夏は 花に飽きたる眼に心地よき
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
さくはなも はやみなづきのにわなれど いけのへにさくかきつばたかな
咲く花も はや水無月の庭なれど 池の辺に咲く杜若かな
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
ゆうまけて はっけいえんのたかだいゆ はるかのうみにみゆるいさりび
夕まけて 八景園の高台ゆ はるかの海に見ゆる漁火
   「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
たそがれて ふでのしらほとちかよれば かきのあさがおもつつぼみかな
たそがれて 筆の白穂と近寄れば 垣の朝顔もつ蕾かな 
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
たのいえの のきのうめのみながあめに あおあおうれてかえるなくなり
田の家の 軒の梅の実長雨に 青青熟れて蛙啼くなり
    「瑞光」 1-1 S 6. 6. 1    苔の花
ふるあめの なかにせわしくなえううる たびとのかさのうごくちまちだ
降る雨の 中にせはしく苗植うる 田人の笠の動く千町田
“Mountain, Light,” (May 3, 1931)
Zuikô (Auspicious Light), Issue 1, Number 1, June 1, 1931
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84 MUSASHINO WA MIWATASU KAGIRI AOBA SHITE HUJIGANE KIYOSHI TSUYU BARE NO SORE
武蔵野は 見渡すかぎり青葉して 富士ケ
清 し梅雨晴霽れの空
On the Musashi Plain, / Fresh verdure as far as / The eye can see, the peak of / Mount Fuji fair pure in the / Fair skies of the rainy season.
 
Untitled, (May 3, 1931)
85 MIZU MITAMA SUSANOO NO KAMI NI HAJIMARISHI WAKA WA MIKUNI NO HIKARI NARIKERI
瑞御霊 素盞能神にはじまりし 和歌は御国の光なりけり
Begun by the / Auspicious spirit, / Susano-o, waka, / Poetry is the / Light of our nation.
 
昭和6年6月集 「明光」58号、S 6. 6. 1
86 HITO HITORI INAI NOHARA NI TATTE OMOU SAMA DONATTE MITAI ORE DA
人一人居ない野原に立つて 思ふさまどなつてみたい俺だ 
87 BUDDA MO YASO MO DANDAN CHIISAKU NARU YÔDA SHINJITSU GA WAKARU HODO
仏陀も耶蘇もだんだん小さくなるやうだ 真実が判るほど
 
88 JIDAI TO IU MAJUTSUSHI WA ONNA O OTOKO NI OTOKO O ONNA NI SHITE SHIMAU
時代といふ魔術師は 女を男に男を女にしてしまふ
89  UCHÛ DAI NI HIROGARU TO OMOE BA MUSHI NO YÔ NI CHIISAKU NARU JINSHIN
宇宙大にひろがると思へば 虫のやうに小さくなる人心
90 NANTO ME NO SAMERU YÔNA HOGARAKA NA USUAO SA EDA O HATTERU MOMIJI NO IRO
何と眼のさめるやうな朗かな淡青さ 枝を張つてる紅葉の色
 
霞(KASUMI)
明光本社第52回月並和歌 昭和6年4月25日「明光」58号、S 6. 6. 1
91 IKUSUJI KA KASUMI NO TACHITE FUJIGANE NO HARU WA SUSO YORI MOE IZURU NARI
いくすぢか 霞の立ちて富士ケ嶺の 春は裾よりもえいづるなり
92 MIYOSINO NO HANA NO NAGAME MO HARU GASUMI HEDATE TE HITOSHIO YUKASHI KARIKERU
み吉野の 花の眺めも春霞 へだてて一入床しかりける
93 ÔKATA NO FUYU MO SUMIDA NO KAWA NO E NI KASUMI KOME TSUTSU MIYAKO HARU MEKU
大方の 冬も隅田の川の上に 霞こめつつ都春めく
明光本社第52回 月並和歌 昭和6年4月24日「明光」58号、S 6. 6. 1
94 EROGURO NO UZUMAKU NIHON YO UTA NO KUNI SHI NO KUNI WASURETE NARE DOKO E IKU
エログロの 渦巻く日本よ歌の国 詩の国忘れて汝何処へ行く
95 KÔSEI NO IRO MINAGIRI TE AMETSUCHI NO HARU WA KINIKERI YAMATO SIMANE NI
更生の 色漲りて天地の 春は来にけり大和島根に
96 KÔMYÔ NO NAKA NI MI O OKI UBATAMA NO YAMI NO YO O MIRU ÔMIYUKI KANA
光明の 中に身をおき烏羽玉の 闇の世を見る大神幸かな
97 AOYAGI NO NAMIKI HA NURETE IRO FUKAKU CHIYODA NO SIROGAKI AME NI KEBURU NARI
青柳の 並木はぬれて色ふかく 千代田の城垣雨けぶるなり
98 KÔSEI NO HARU NO TENCHINI KOTOTAMA NO NARI NARU KAMI NO CHIKARA OMOERI
更生の 春の天地に言霊の 鳴り鳴る神の力思へり
 


“Mount Heaven and Earth” (June 15, 1931)
乾坤山(KENKONZAN)
Zuikô (Auspicious Light), Issue 1, Number 2, July 1, 1931
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99 NIHONJI NO NA NI AKOGARE TE OTONAE BA MISHIKOTO MO NAKI   SARASÔJU ARI
日本寺の 名に憧れて訪へば 見し事もなき沙羅樹双あり
Drawn by the name / Temple of Japan, we / Saw something when we / Visited we had never seen / Before, a shala tree.
 
100 YAMAAI NI ISHI NO HOTOKE NO KAZU ÔKI BUSSEKI YUTAKANA AWA NO NIHON JI
山間に 石の仏の数多き 仏蹟豊な安房の日本寺
Great is the number of / Stone buddhas set / Throughout the glen; rich in / Buddhist relics is Nihon-ji / Temple of Awa Province.
 
101 YAMAAI NO AOKUSA NO E NI MUSHIRO OKI TORI NO NAKU NE O KIKITUTU SORA MIRU
山間の 青草の上に筵敷き鳥の啼く音をきゝつゝ空見る
Spreading a straw / Mat over the fresh / Grass of the glen, / I listen to the birds sing / As I watch the sky.
 
102 TENGOKU NO SAMA TO OMOERI UTABITO NO AOKUSA NO E NI SANSAN GOGO SUWARU
天国の 状と思へり歌人の 青草の上に三三五五座る
Thinking about / The state of / Paradise, poets / Sit around on / The fresh grass.
 
103 USU GASUMU UMI NI SHIMAYAMA E NO GOTOKU KEMURITE MIENU DONKAIROU TEI
うす霞む 海に島山絵の如く 煙りて見えぬ呑海楼庭
In the lightly misting sea, / Like a landscape of island and / Mountain, so hazy that / Cannot be seen the Garden / Drink Ocean Cherry-Trees.
 
104 KENKONZAN NOBORI TE AWA NO UMI NO MO O NAGAMURU SODE NI SHOKA NO KAZE FUKU
乾坤山 登りて安房の海の面を 眺むる袖に初夏の風吹く
Climbing Mount / Heaven and Earth, we gaze / Out over the surface of the / Sea of Awa as the early summer / Breezes waft through our sleeves.
 
105 YAMA NO HA O NOBORU ASAHI NO SÔGON NO HIKARI OGAMINU KENKONZAN NO E
山の端を 昇る旭日の荘厳の 光拝みぬ乾坤山の上
On the summit of / Mount Heaven and Earth, / We pray to the majestic / Light of the sun rising / Over the edge of the mountain.
 
106 TERIMI FURAZUMI NODOKEKI SHOKA NO YAMAAI NI UTA YOMUTSUDOI NO MEZURASHIKI KYO
照りみ降らずみ 長閑けき初夏の山間に 歌詠む集ひの珍らしき今日
The light continues to / Shine on this tranquil / Glen of early summer / As poems are / Composed by the group.
 
107 UTA O YOMU KOTO MO WASURENU AWA NO UMI NO ZEKKA NO KESHIKI NI KOKORO UBAWARE
歌を詠む 事も忘れぬ安房の海の 絶佳の景色に心うばはれ
My heart is taken away / By the scene of the / Beauty of the Sea of Awa, / Causing me to forget even / To compose poems.
 
108 AMA TERASU KAMI NI YUKARI NO ARU NARAN NA MO HINGASHI NO HI NO MOTO NO TERA
天照す 神にゆかりのあるならむ 名も東の日の本の寺
Doubtless in connection to / The god that shines from / Heaven, even its very name / Is the temple of the origin / Of the sun in the East.
 

 
“A Poetic Account of a Journey to Awa” (June 15, 1931)
安房歌紀行 (AWA UTA KIKÔ)
Zuikô (Auspicious Light), Volume 1, Issue 2, July 1, 1931
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109 OMOU DOCHI SANJU AMARI NO HITOBITO TO BÔSHÛ NI MUKE RYÔGOKU EKI TATSU
おもうどち 三十余りの人々と 房州に向け両国駅たつ
Thirty-some like- / Minded persons set / Off from Ryogoku / Station heading for / The Boshu district.
110 KOBAYASHI NO HUJIN YA TAKAKU JOSHI TACHI TO KANNDAN UMAZU HODA EKI NI TSUKU
小林の 夫人や高久女史たちと 歓談倦まず保田駅に着く
Not tiring of / Conversing with / Mr. and Mrs. Kobayashi / And Mrs. Takaku, the / Train arrives at Hota Station.
111 RYÔ JOSHI NO HANASHI NI TSURARE TE ENDÔ NO KESHIKI MO MANAKO NI IRAZU YÛGURU
両女史の 話につられて沿道の 景色も眼に入らず夕暮る
Caught up in / Conversation with the / Two ladies, I do not even / Notice the scenery along the / Road as dusk sets in.
112 TSUKI NO NAKI YAMIJI O TSUITE JIDÔSHA WA FUMOTO NO CHAYA E YASUKU TSUKI KERI
月のなき 闇路を衝いて自動車は 麓の茶屋へ安く着きけり
Piercing through the / Pitch black road on a night / With no moon, the taxi / Easily arrived at the / Mountain-side tea house.
113 CHÔCHIN NO KASOKE KI HIKARI NI TOBOTOBO TO ISHI NO KIZAHASHI
提灯の かそけき灯光にとぼとぼと 石の階段登りゆくかな
The faint / Light of the lantern / Flickers as / We climb / The stone steps.
114 NOKOGIRI YAMA CHÛFUKU NI ARU NIHONJI NI IREBA TOKEI WA JÛJI HAN UTSU
鋸山 中腹にある日本寺に 入れば時計は十時半打つ
As we arrive at / Nihon-ji Temple half- / Way up Nokogiri mountain, / The clock strikes / Half past ten.
115 YAMADERA NO HIROBIRO TO SHITE YO NO ME NIMO ATARI NO KOSHIKI YUKASHIKU MIE KERI
山寺の 広々として夜の眼にも あたりの古色床しく見えけり
The wide expanse of / The mountain temple / Venerably appears / In the eyes / Of the night.
116 WARA BUKI NO ITOMO SOMATSU NA HURO NI IRI ASE O NAGASEBA YOMIGARI KERI
藁葺の いとも廉
末な風呂に入り 汗を流せば甦りける
Getting into a crude bath / Tub in a straw- thatched / Hut, greatly refreshed / We feel as the dirt of / Travel washes away.
117 ZEN DERA NO YO WA SHINSHIN TO FUKE WATARI HANASHI NO KYÔ WA HATSUBEKU MO NASHI
禅寺の 夜は深々と更けわたり 話の興は果つべくもなし
Ever deepens night / At the Zen temple / With no end / In sight to our / Fascinating conversation.
 
118 SAUGA NIMO TSUKARE TARU HITO TSUGITSUGI NI FUSHIDO NI IREBA WARE MO INE KERI
流石にも 疲れたる人次々に 臥床に入れば吾も寝ねけり
As the exhausted people / Go to their beds to sleep / One after another, / I finally go to / Sleep myself.
 
119 SHIMIZU SHI YA HATTORI SHI NO HONEORI NI TOKUBETSU NO HEYA NI YASUKU INESHI MO
清水氏や 服部氏の骨折に 特別の室に安く寝ねしも
Through the efforts of Mr. / Shimizu and Hattori, / We slept in a / Special room for a / Rather reasonable rate.
 
120 MAYONAKA NO SANJI NI MANAKO SAMEKERE BA KASHO NO KUNIBITO TSUGITSUGI OKOSERI
真夜中の 三時に眼覚めければ 華胥の国人次々起せり
At three o’clock of the / Middle of the night when / I awake, I have to arouse / One after another residents / Of the land of slumber.
 
121 ASHI YOWA KI HITOTACHI INOKORI YAMA NOBORU IKKÔ NIJÛ GONIN TERA IZU
足弱き 人等居残り山登る 一行二十五人寺出づ
Leaving behind / Those with weak legs, / A party of twenty-five persons / To ascend the mountain / Departs the temple.
 
122 ASHI BIKI NO YAMI NO YAMAJI O ISAMASHIKU CHÔCHIN NO HI O TAYORI NI NOBORU MO
足曳きの 闇の山路を勇ましく 提灯の灯を頼りに登るも
Boldly we climb, / Guided by the light of / The lanterns, the / Dark, tortuous / Mountain path.
 
123 YÔYAKU NI KENKONZAN NO ITADAKI NI NOBORE BA HONOBONO ATARI MIE SOMU
漸くに 乾坤山の巓に 登ればほのぼのあたり見え初む
Finally, as we ascend the / Summit of Mount / Heaven and Earth, / The area starts to / Faintly appear around us.
 
124 HINGASHI NO YAMA NO HA NO KAGE AKANE SASHI TANABIKU KUMO NO KIN NO IRO KANA
東の 山の端の影茜さし 棚引く雲の金の色かな
As crimson shines on the / Edge of the mountains / In the east, / The trailing clouds / Are such a gold color!
 
125 ASAGIRI NO HAREYUKU MAMA NI OCHIKOCHI NO UMI YAMA MIETE SUGASHI KARIKERU
朝霧の はれゆくまゝに遠近の 海山見えて清しかりける
How refreshing, / As the morning mist / Clears, near and far / Mountain and sea / Come into view.
 
126 BÔSÔ NO NEMURERU SHIMAYAMA HARUKA NITE MI WA TENKÛ NI ARU OMOI SUMO
房総の 眠れる島山はるかにて 身は天空にある思ひすも
Far in the distance, the / Sleeping mountain islands of / Boso make me feel / I am floating / In the sky overhead.
 
127 KUMO IZURU AMATSU HIKAGE O OROGAMI TE IKKÔ TSUTSUSHIMI NORITO SÔSHINU
雲いづる 天津日光を拝みて 一行謹しみ祝詞奏しぬ
The clouds depart and / Paying homage to / The rays of the holy / Rising sun, the / Party recites a prayer.
 
128 ASA NO HI NO NOBORU GA MAMANI URAURA NO CHIISAKI YANAMI ME NI IRITE KERI
旭の陽の 昇るがまゝに浦々の 小さき家並眼に入りてけり
As the morning / Sun rises / In the distance, / Rows of houses / Enter my vision.
 
129 SANCHÔ WA JÛSSHÛ ICHIRAN DAI TOKAYA GENIMO SO NO NA NO FUSAWASHIKI KANA
山頂は 十州一覧台とかや 実にも其名のふさはしきかな
The mountain summit / Is called “Ten Province / Lookout” and / Truly fitting / Is that name.
 
130 RENZAN WA CHÔJO TO SHITE KOKU AWAKU ASAGIRI NI UKU NAGAME URUWASHI
連山は 重畳として濃く淡く 朝霧に浮く眺め美はし
Beautiful is the view / Of the mountain range / On which floats / In layers thickly and / Thinly the morning mist.
 
131 KANNON ZAKI TÔDAI NO HI WA ASAGIRI NO TACHI KOMU NAKA NI MEIMETSU NASHI ORI
観音崎 灯台の灯は朝霧の たちこむ中に明滅なし居り
The beams of the / Lighthouse at / Kannon Point / Flicker admist / The thick morning mist.
 
132 HAKONIWA NO KESHIKI MIRUGOTO UMI NO MO NO SHIMAKAGE TENTEN HENSHÛ NO MIYU
箱庭の 景色見る如海の面の 島かげ点々片舟の見ゆ
As if viewing the scenery / Of a miniature garden, / Little skiffs dot the surface of / The ocean on which the vague / Outline of the islands appear.
 
133 NOBORU HI NI ATARI MATTAKU AKE NURE BA IKKÔ GEZAN NO TONIZO TSUKI KERI
昇る陽に あたり全く明けぬれば 一行下山の途にぞつきけり
As the rising sun / Brightens the area ever more / The party arrives at / The path to start the / Descent of the mountain.
 
134 AMAAI NO IWAYA NO NAKA NI SEKIZÔ NO RAKAN NO ZÔ NO AMATA TACHIORI
山間の 岩窟の中に石造の 羅漢の像の数多立ち居り
In the ravines of / The mountain / Stand many / Stone statues / Of arhats.
 
135 KOKORO NAKI HITO NO ÔKI MO TACHI NARABU RAKAN NO HANSÛ KUBI NO NAKI KANA
心なき 人の多きも立ち並ぶ 羅漢の半数首の無きかな
Like the many heartless / People of the world, / Half the number of / Arhats have / No heads.
 
136 HYAKU TAI NO ZEKIZÔ KANNON SHAKUSON YA DARUMA NO ZÔ NI SHOBOSATSU OWASU MO
百体の 石造観音釈尊や 達磨の像に諸菩薩在すも
Among the hundreds of / Stone statues of Kannon, / Sakyamuni, and Bodhidarma, / Are also those of / All the Boddhisattvas.
 
137 SARASÔJU HAJIME MOROMORO CHINBOKU NO OISHIGERU NARI KENKON NO YAMA
沙羅双樹 はじめもろもろ珍木の 生ひ茂るなり乾坤の山
Along with the sala / All kinds of unusual / Varieties of trees / Grow luxuriantly on / Mount Heaven and Earth.
 
138 KAISAN NO GYÔKI BOSATSU NO KIZAMU TO U YAKUSHI NYORAI NO MOKUZÔ ARIKERI
開山の 行基菩薩の刻むとふ 薬師如来の木像ありけり
There was a wooden / Statue of the Tathagata / Buddha of Healing / Carved by the / Temple’s founder Gyogi.
 
139 KASHIKOKU MO KÔMYÔ KÔGÔ NO MIKORONORI NI GYÔKI NO HIRAKI SHI HO NO MOTO NO TERA
畏くも 光明皇后の勅に 行基の開きし日の本の寺
Based on decree by / The august Empress / Bright Light, Priest Gyoki / Founded the Temple of / The origin of the sun.
 
140 JÛICHI MEN KANNON NO SONZÔ WA SONO MUKASHI JIKAKU TAISHI NO KIZAMISHI MONO TOKA
十一面 観音の尊像は其昔 慈覚大師の刻みしものとか
It is said that the sacred / Statue of the Eleven-faced Kannon / Was carved by / The Great Master / Compassionate Awakening.
 
141 YAMADERA NO INAKA RYÔRI NO ASAMESHI WA MIYAKO NO CHINMI KAKÔ NI MASARERI
山寺の 田舎料理の朝飯は 都の珍味佳肴に勝れり
The country cuisine of / The breakfast at the / Mountain temple / Surpasses any rare, delicious / Tidbit from the city.
 
142 HONDÔ O HAIKEI NISHITE IKKÔ WA KINEN NO TAME TO SHASHIN TORIKERI
本堂を 背景にして一行は 紀念の為と写真撮りけり
Against the backdrop of / The main temple hall, / A commemorative photograph / Of the group was / Was taken.
 
143 NAGAME YOKI ICHI O ERABITE TATE RARESHI DONKAIROU TO SONO NIWA NI ASOBERI
眺めよき 位置を撰びて建てられし 呑海楼と其庭に遊べり
Drink-Sea-Pavillion, / Chosen and built for the / Location of its good view, / We rest and relax / In the garden.
 
144 DONKAIROU NO SHIBAFU NO NIWA NI MUSHIRO SHIKI SOKUSEKI UTAKAI O HIRAKITE TANOSHIMU
呑海楼の 芝生の庭に莚敷き 即席歌会を開きてたのしむ
Spreading straw mats / Over the lawn of the garden at / Drink-Sea-Pavilion, / We hold an impromptu / Poetry party and relax.
 
145 MEZURASHIKI KAMEISHI YA KIGAN KAISEKI NO HIMA NI OIMATSU WADAKAMARU NIWA
珍らしき 亀石や奇巌怪石の 間に老松わだかまる庭
Between the unusual / Tortoise-shaped and other / Strangely-formed rocks, / Stretch tortuously the / Branches of an old pine tree.
 
146 DONKAIROU NIWA YORI MIREBA KESHIKI YOKI AWA NO SHIMAYAMA SHIKO NO NAKA KANA
呑海楼の 庭より見れば景色佳き 安房の島山指呼の中かな
Amidst the nice scenery / Viewed from the garden of / Drink-Sea Pavilion / The island off Awa seems / As if it could be hailed.
 
147 HARE WATARU MISORA NO SHITA NI KOKORO YUKU BAKARI ANKYO SU YAMAAI NO NIWA
晴れ渡る み空の下に心ゆく ばかり安居す山間の庭
Under the clear sky / My heart could go / On forever resting / In the garden between / The mountain ridges.
 
148 UTAKAI MO AWARITE SHUPPATSU NO EKI NI TSUKI IKKÔ MATAMO GEZAN NO TO NI TSUKU
歌会も 終りて出発の準備なし 一行又も下山の途につく
The poetry gathering / Ends and completing / Preparations, the / Party starts on the path / To descend the mountain.
 
149 HOTA EKI YU NAGOFUNAGATA NO EKINI TSUKI IKKÔ AIKAWA RYOKAN NI IRIKERI
保田駅ゆ 那古舟形の駅に着き 一行相川旅館に入りけり
Arriving at Hota Station / With its distinctive roof / In the shape of a boat, / The party checks / Into the Aikawa Inn.
 
150 NAGOKANNON E SAISHI OWARITE FUNAGATA NO KANNONN SASHITE SANNSANN GOGO IKU
那古観音へ 賽し終りて舟形の 観音さして三三五々行く
After making an offering / At Nago Kannon, / We stroll in small / Groups around the / Boat-shaped Kannon.
 

151 SÛJÔ NO GAKE NO E AYAUKU AKA NURI NO MIDÔ SÔGEN NI TACHITE ARIKERI
数丈の 崕の上危く赤塗りの 御堂荘厳に建ちて在りけり
Several yards high atop a / Dangerous precipice / Solemnly stands the / Sacred Hall / Painted in red.
 
152 FUNAGATA NO GAKE NO KANNON DÔNAI NI IREBA ZEKKA NO KESHIKI MI NI IRU
舟形の 崕の観音堂内に 入れば絶佳の景色眼に入る
Entering the / Kannon Hall on the / Boat-shaped precipice, / The most beautiful scenery / Comes to our eyes.
 
153 KEISHÔ NO ICHI O SHIMETARU FUNAGATA NO KANNONDÔ NO NAGAME MEZURASHI
景勝の 位置を占めたる舟形の 観音堂の眺め珍し
How unusual is /  The view from the / Kannon Hall, a boat- / Shaped roof set amidst / Picturesque scenery.
 
154 IKKÔ WA RYOKAN NI KAERI CHÛSHOKU O SHITATAME KIKYÔ NO KISHA NI IRIKERI
一行は 旅館に帰り昼食を したゝめ帰京の汽車に入りけり
The party returns / To the inn, takes / Lunch, and so / Boards the train / For return to Tokyo.
 
155 SHOKA NO TA NI TABITO SEWASHIKU NAE UERU NAKA O NOBORI NO KISHA HASHIRI YUKU
初夏の田に 田人忙しく苗植ゑる 中を上りの汽車走り行く
Directly through the / Paddies of early summer / Where the farmers busily / Plant seedlings runs / The inbound train.
 
156 KONO ATARI BIWA NO HATAKE NNO OCHIKOCHI NI MIETE WASEDA NO KAZE NI SOYOGU MO
此あたり 枇杷の畑の遠近に 見えて早稲田の風にそよぐも
Among the loquat fields / Of this area / Can be seen gentle / Clouds in the winds / Over the early rice paddies.
 
157 SOYOSOYO TO AOTA O WATARU KAZE FUKITE SHOKA KOKOCHI YOKI KISYA NO TABI KANA
そよそよと 青田を渡る風吹きて 初夏心地よき汽車の旅かな
Gently blows / The wind over the green, / Pleasant is the / Feel of the journey by / Train in early summer.
 
158 MEGUMARESHI TABINITE ARIKI KAISEI NO SORA KAZE KAORU KONO FUTSUKA NARISHIMO
恵まれし 旅にてありき快晴の 空風薫る此二日なりしも
These two days / Were a journey / Quite blessed with / Skies and breezes / Full of beautiful weather.
 

159 KAZE KAORU AOBA NO YAMA NI AWA NO UMI NAGAMESHI TABI NO WASURE GATASHI MO
風薫る 青葉の山に安房の海 眺めし旅の忘れがたしも
Difficult it is to forget the / Views during the journey / Of the sea of Awa, with / Breezes full of the scent of the / Fresh verdure of the mountains.
 
 
 
“Sun, Moon,” (June 6, 1931)
Zuikô (Auspicious Light), Issue 1, Number 2, July 1, 1931
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160
天津日を 豊栄昇り天心に 玉と輝き消ゆる影かな
As the divine sun rises / To the heavens / Nourishing all, / Shining as an orb, / The shadows disappear.
 
161
日の光 月の恵にすくすくと 民草のびる時ぞ待たるゝ
Awaiting the time when / The people will vigorously / Grow with the beneficence / Of the moon along with / The light of the sun.
 
162
月と日の 恵豊かに玉はりて 高天原に永久に住みなん
Abundantly receiving / The blessings of the moon and / The sun, eternal life can / Be had in the high / Plains of heaven.
 
163
暗の夜の 今宵の集ひもまめ人の 心の空は月照らすなり
This meeting tonight / In the darkness, the / Moon shines / On the sky of / The hearts of the faithful.
  
 
昭和6年7月集
    「明光」59号 S 6. 7. 1    五月晴
かわがみえる しらほがひとつふたつみつ まぶしいさつきばれ
川が見える 白帆が一つ二つ三つ 眩しい五月晴れ
   「明光」59号 S 6. 7. 1    五月晴
かぜかおるほどうに かるいすとっきんぐのうごき ぷらたなすのかげ
風薫る歩道に 軽いストッキングの動き プラタナスの影
   「明光」59号 S 6. 7. 1    五月晴
なみのじゃずにまつかぜのめろでぃー しおのかすなはまだあつい
波のジャズに松籟のメロデー 潮の香砂はまだ熱い
 
    「明光」59号 S 6. 7. 1    五月晴
なんとなくかんじるということほど せいかくさはないとおもうときおり
何となく感じると言ふ事ほど 正確さはないと思ふ時折

明光本社第53回月並和歌 昭和6年5月27日
    「明光」59号 S 6. 7. 1    朝
よすがらの あらしのおともしずもりて うららかにさすけさのひのかげ
夜すがらの 嵐の音も静もりて うららかにさす今朝の陽の光
    「明光」59号 S 6. 7. 1    朝
ほがらかな あさなりふじはむらさきの きょくせんゆるくそらにえがける
ほがらかな 朝なり富士は紫の 曲線ゆるく空に描ける
    「明光」59号 S 6. 7. 1    朝
きりのまく もるるあさひのかげうけて なごやかにはゆやまざくらばな
霧の幕 もるる朝陽の光うけて なごやかに映ゆ山桜花
明光本社第53回月並和歌 昭和6年5月22日
    「明光」59号 S 6. 7. 1    雑 詠
とうほうの ひかりいよいよいづのめの みわざてりそむときとなりけり
東方の 光いよいよ伊都能売の 神業照り初む時となりけり
    「明光」59号 S 6. 7. 1    雑 詠
ひとびとの こころのままにうつしよの ちりにゆだねてすくいのきみかな
人々の 心のままにうつし世の 塵に委ねて救ひの貴美かな
 
暉月先生の歌
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
ひんがしに ずいこうにしにめいこうの いやかがよいてみくにやみなし
東に 瑞光西に明光の いや輝ひて神洲暗なし
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
あたまには ゆきいただけどもゆるひの おもいをつつむわれにてありけり
頭には 雪いただけど燃ゆる火の 思ひを包む吾にてありけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
こうせいの きみみづみづしもよちゅうしゅうの あなないのつきにたとえてもみし
更生の 君瑞々しもよ中秋の 三五の月にたとへても見し
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
あれいでし ずいこうのふみにようなれど かみのめぐみにやすくさかえん
生れ出でし 瑞光の誌二葉なれど 神の恵に安く栄えむ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
かぜにさえ たえぬわかめもすくすくと おおきとはえててんをますかな
風にさへ 堪へぬ若芽もすくすくと 大木と栄えて天を摩すかな
   
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1 
しきしまの くにびとわれはわかのふみ ずいこうみよにかがやかさんとおもう
敷島の 国人われは和歌の誌 瑞光御代に輝かさんと思ふ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1 
ささやかな ずいこうなれどなにしおう めいこうぼたいにあれしなりけり
ささやかな 瑞光なれど名にしおふ 明光母体に生れしなりけり
 
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
ずいこうを うませしめいこうよとことはに はぐくみまもれひたにねぐなり
瑞光を 生ませし明光よ永久に 哺育み守れひたに願ぐなり
 
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
みずのつき しみずにはゆるすがたみれば いきのいのちのながかれとおもう
瑞の月 清水に映る姿見れば 生きの命の永かれと思ふ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1 
ひさかたの くもいのうえにてるつきと ひはあめつちとむたきわみなき
久方の 雲井の上に照る月と 日は天地とむた極みなき
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
つきのまゆ はなのかんばせにくからぬ めがみはこいのまとにてありけり
月の眉 花の顔二九からぬ 女神は恋の的にてありけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
こいすちょう ことはとしにはかかわりの なきをしりけるいそじのさかにて
恋すてふ ことは年にはかかはりの なきを知りける五十路の坂にて
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1 
いまはただ おもいをあかすひとのなき こいひむなやみのときをまつのみ
今はただ 思ひを明す人のなき 恋秘む悩みの時を待つのみ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
たまさかに あうよもひとめのせきしょとう いづのしがらみあるよなりけり
たまさかに 逢ふ夜も人目の関所とふ 厳の柵ある世なりけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1 
あいみぬも こころはせんりのとおきまで かようとなしてひとりなぐさむ
逢ひ見ぬも 心は千里の遠きまで 通ふとなして独りなぐさむ
 
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
しきしまの みちをつとうてわれおもい かよわざらめやくものかなたへ
敷島の 道をつとふて吾思ひ 通はざらめや雲の彼方へ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
さむかぜの すさむがごときよにありて こころぬくきもこいすればなり
寒風の 荒むが如き世にありて 心温きも恋すればなり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
てんわたる つきにそいつつきみがりに ゆきてみばやといくどおもいし
天渡る 月に添ひつつ君許に 行きて見ばやと幾度思ひし
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
むつまじく えだにむたいることりにも みるめをそらすわれのいまかな
むつまじく 枝にむた居る小鳥にも 見る眼をそらす吾の今かな
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1 
わぎもこに なれこうこころさとられじと あさゆうよそおうわれにてありけり
吾妹子に 汝恋ふ心悟られじと 朝夕粧ふ吾にてありけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
あさまだき まどをあくればきょうもまた むせぶがごとくさみだれのふる
朝まだき 窓を開くれば今日も又 むせぶが如く五月雨の降る
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
なつながら まだつゆのこるおおぞらを ながめてしのぶもやまとみずのべ
夏ながら まだ梅雨残る大空を 眺めて偲ぶも山と水の辺 
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
たんけいの こころをそそるぽすたーの えきにはにぎわうなつとなりけり
探景の 心をそそるポスターの 駅に賑はふ夏となりけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
おおもりの わがいおよりもきぎのまに うみみえゆうじょうしきりにわくかな
大森の 吾庵よりも樹々の間に 海見え遊情しきりに湧くかな
   「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
おいしげる きぎのみどりばうすぎぬを きせしがごとくしずかにあめふる
生ひ茂る 木々の緑葉薄絹を 被せしが如く静に雨降る
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
せっかくに さきしとおもいしとりどりの だりやのはなもあめにすさみし
折角に 咲きしと思ひしとりどりの ダリヤの花も雨にすさみし
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1 
ながあめに あじさいのはないろあせて みるもむざんのすがたなりけり
永雨に 紫陽花のはな色あせて 見るも無残の姿なりけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
とうろうの こけあおあおといけのもに うつりてさいうしきりにふるも
灯籠の 苔青々と池の面に 映りて細雨しきりに降るも
 
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
あめやみて くもまをのぞくひのかげに きぎのぬれはのひかりまばゆし
雨やみて 雲間を覗く陽の光に 木々の濡葉の光まばゆし
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1
あおあおと あめにぬれたるしばくさの さゆぐるみればひきのいるなり
青々と 雨に濡れたる芝草の さゆるぐ見れば蟇の居るなり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
うろこぐも みずにうつりてそよそよと はつなつのかぜたもとふくなり
うろこ雲 水に映りてそよそよと 初夏の風袂ふくなり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
あおあおと まこものしげりさながらに しまとみゆるもかすみがうらのえ
青々と 真菰の茂りさながらに 島と見ゆるも霞ケ浦の上
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
まこもおう ひまをけいしゅうわけゆけば おりおりとびたつなしらぬとりかな
真菰生ふ 間を軽舟分け行けば をりをり飛び立つ名知らぬ鳥かな
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
ふねのうえ ふりさけみればいんようの つくばのみねにしうんたなびく
舟の上 ふりさけみれば陰陽の 筑波の嶺に紫雲たなびく
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
のどかなる そらにひこうきせいれいの むれとぶごときながめなりけり
長閑なる 空に飛行機蜻蛉の 群れ飛ぶ如き眺めなりけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
まこもしま ぽぷらのこだちおちこちに みゆるすいごうめずらしきかな
真菰島 ポプラの木立遠方近方に 見ゆる水郷珍らしきかな
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
はつなつの にぶきひかげにかぜもなく さざなみわけてふねはすべるも
初夏の にぶき陽光に風もなく 小波分けて舟は辷るも
   「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
いろくろき ろうやしきりにぎょぐをてに あぐるはうなぎをかくにやあらむ
色黒き 考爺しきりに漁具を手に 上ぐるは鰻を掻くにやあらむ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
そよかぜに ぽぷらのうらばしろじろと みえてまこものみずにうつるも
そよ風に ポプラの裏葉白々と 見えて真菰の水に映るも
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
むらさきに におうあやめをはつなつの きょうめずらしとすいごうにみる
紫に 匂ふあやめを初夏の 今日珍らしと水郷に見る
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
あこがれの いたこでじまにふねつけば おかへあがりていばりなしけり
あこがれの 潮来出島に舟着けば 陸へ上りて尿なしけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
イタリーの べにすのまちはまだみぬも このすいごうにしのびてもみし
伊太利の ベニスの街は未だ見ぬも 此水郷に偲びても見し
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
かじわらの いくさぶねにもにたるかな ぜんごへさきのすいごうのふね
梶原の 軍船にも似たるかな 前後舳の水郷の舟
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
めずらしも かしまのみやのとりいまえ ごひゃくしじゅっけんのながはしかかれり
珍らしも 鹿島の宮の鳥居前 五百四十間の長橋架かれり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
みずうみと かわとぬまとをかねそなう かすみがうらはめずらしかりける
湖と 河と沼とを兼ね具ふ 霞ケ浦は珍らしかりける
   「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
 おおぞらも かすみがうらのゆうなぎて かえるしらほのゆるくもあるかな
大空も 霞ケ浦の夕凪ぎて 帰る白帆のゆるくもあるかな
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
たそがれて いたこでじまはえのごとく たちなむいえにほかげまたたく
たそがれて 潮来出島は絵の如く 立ち並む漁家に灯火またゝく
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
ゆうもやは かすみがうらにただようて まこものうえをしらほゆくなり
夕靄は 霞ケ浦にたゞよふて 真菰の上を白帆行くなり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
さざなみに つきほほえみてごいさぎの まこもゆるがせまいたちにけり
小波に 月ほゝゑみて五位鷺の 真菰ゆるがせ舞ひ立ちにけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
ようやくに ふねやるほそきみぞかわを じゅうにのはししたもぐりてゆきけり
やうやくに 舟やる細き溝川を 十二の橋下潜りて行きけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
ばんどうに なだかきかしまかとりなる みやにもうでぬことしふみづき
坂東に 名高き鹿島香取なる 神宮に詣でぬ今年文月
   「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
かんぺいの たいしゃじゅうろくあるなかに さいことききしもかしまじんぐう
官幣の 大社十六ある中に 最古と聞きしも鹿島神宮
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
うらやすのくに たけみかづちのしずませる かしまのみやにかみのよしのぶも
浦安の国 武甕槌の鎮ませる 鹿島の宮に神の代偲ぶも
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
ろうさんの しんしんとしてかむさびし かしまのみやにおもいふかしも
老杉の 森々として神さびし 鹿島の神宮に思ひ深しも
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
いそのかみ ふるきいさおのいまもなお かしまのみやにかおるなりけり
石の上 古き武勲の今も猶 鹿島の宮にかをるなりけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
おおとねを わたればかとりじんぐうの とりいはもりのなかにみえけり
大利根を 渡れば香取神宮の 鳥居は森の中に見えけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
きくのもん まばゆきかとりじんぐうに もうでてきねんのしょうしょうとりける
菊の紋 まばゆき香取神宮に 詣でて記念の小照撮りける
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
うらやまに のぼりてみればおおとねの ながれはきぎのひまにひかるも
裏山に 登りて見れば大利根の 流は樹々の間に光るも
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
さんどうは さくらなみきのりょうがわに つづきてやよいのころをしのべり
参道は 桜並木の両側に 続きて弥生の頃を偲べり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
おおやまと しまねのしずめとふつぬしの みことをまつるかとりのみやかな
大やまと 島根の鎮めと経津主の 尊を祀る香取の宮かな
瑞光臨時歌会詠草 昭和6年7月1日
   「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    水郷めぐり
みずやそら まこものかぜもここちよき なつのはじめのかすみがうらかな
水や空 真こもの風も心地よき 夏のはじめの霞ケ浦かな
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
はるなさん にじゅうあまりのきをゆるし あうひとどちときょうたずねきぬ
榛名山 二十余りの気をゆるし 合ふ人達と今日訪ね来ぬ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
かかなべて ふるあめにあきしみやこをば あとにはるなのふじあてにゆく
日々なべて 降る雨に倦きし都をば 後に榛名の不二的に行く
   「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
ゆきさきは もうもうとしてきりけむる なかをじどうしゃあやうげにはしるも
行先は 濛々として霧けむる 中を自動車危げに走るも
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
やまもみえず うみもみえなくひとすじの みちさえきりにかくろいてけり
山も見えず 湖も見えなく一筋の 道さへ霧にかくろひてけり

    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
ありやなしの みちくさふみわけあえぎつつ みちびくあないのあとにしたがう
ありやなしの 道草ふみ分けあへぎつつ 導く案内の後に従ふ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
たかきやまに あらねどきゅうざかくさふかく はうがごとくにいただきにつく
高き山に あらねど急坂草深く 這ふが如くに頂につく
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
きりこむる うみのみぎわもおぼろげに さざなみみえてしずかなりけり
霧こむる 湖の水際もをぼろげに 小波見えて静なりけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
ふかぎりを つきゆくけーぶるかーのうえ みはくもなかにまいゆくここちす
深霧を つきゆくケーブルカーの上 身は雲中に舞ひ行く心地す
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
くもかきりか ただぼうばくとはるなさん つつみてたいこをわれしのびけり
雲か霧か たゞ茫漠と榛名山 つゝみて太古を吾偲びけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
あおぎみれば きりもやのなかほのかにも あかきはあまつひのかみますらん
仰ぎ見れば 霧靄の中ほのかにも 明きは天津日の神ますらむ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
おもいきや げんかさざめくいかほのち おうじついかいなしてなみだす
思ひきや 絃歌さざめく伊香保の地 往時追懐なして涙す
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
そぼくなりし いかほのむかししたしみつ たちよりしことのおろかさしりけり
素朴なりし 伊香保の昔親しみつ 立寄りし事の愚さ知りけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
ゆのまちを したしまんとてそぞろゆけば けわいのおんなわがそでをひく
温泉の町を 親しまんとてそぞろゆけば 化粧の女吾袖を引く
   「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
せいしんの きにひたらんとやまのゆに きたればいやしきことのおおきも
清新の 気に浸らんと山の温泉に 来れば卑しき事の多きも
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
えろぐろの あくふうやまのおくまでも おいゆくにほんのあやうしとおもう
エログロの 悪風山の奥までも 追ひゆく日本の危しと思ふ
   「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
はるなこの りゅうじんのそこのこころをば はかりてみづのしんかのりけり
榛名湖の 龍神の底の心をば はかりて瑞の神歌宣りけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
たけたかき ももぐさちぐさふみわけて わがころもではつゆにぬれつつ
丈高き 百草千草ふみわけて 吾衣手は露に濡れつゝ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
くさもきも すみえのごとしうみのもの みぎわにのぞみてしげむすがたは
草も木も 墨絵の如し湖の面の 汀にのぞみて茂む姿は
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
はるるよと みるまにおそうふかぎりの いとまもあらぬなつのやまやま
晴るるよと 見る間に襲ふ深霧の 遑もあらぬ夏の山々
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
おちこちの やまにみつうんきょらいして あめはれぎわもながめなりけり
遠近の 山に密雲去来して 雨晴れ際も眺めなりけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
あかぎやま ただようくものひまにみえて あさあけすがしもいかほのゆのやど
赤城山 たゞよふ雲の間に見えて 朝明清しも伊香保の温泉の宿
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
きりのまに さあかくみゆるはなつのころ いとめずらしもやまつつじかな
霧の間に さ紅く見ゆるは夏の頃 いと珍らしも山つつじかな
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
しんえつの やまむらさきにこくあわく つらなるびかんおもうきりのま
信越の 山紫に濃く淡く 連る美観想ふ霧の間
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
ぎぼしゅはぎ くまざさしげみめずらしも はるなのふじにたちきとてなき
擬宝珠萩 熊笹茂み珍らしも 榛名の不二に立木とてなき
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
こはんていに やすらいしえんゆるがせば きりよりながるるかぜのつめたき
湖畔亭に 憩らひ紫煙ゆるがせば 霧より流るる風の冷たき
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
はるなさん そのもなかなるふじがねの うえにみみやのなきぞくすしも
榛名山 其最中なる不二ケ嶺の 上に神宮のなきぞ奇しも
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
はるなふじ いただきのえにあめつちの かみのみみやをいつきたきかな
榛名不二 巓の上に天地の 神の御宮を斎きたきかな
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
ながあめの なやみにたえぬさとびとの きがんのためにのぼるにあいけり
永雨の 悩みに堪へぬ里人の 祈願の為に登るに会ひけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
はるなふじ のぼりてことたまはっしゃせし ためにやあおぞらみしもよくじつ
榛名不二 登りて言霊発射せし 為にや青空見しも翌日
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
あおがきやま めぐらすはるなのふじがねは さながられんげだいのかたなり
青垣山 囲らす榛名の不二ケ嶺は さながら蓮華台の型なり
瑞光臨時歌会詠草
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    ハルナ登山
はるなさん こうげんいったいはなわらう やがててんごくみそのになるらん
榛名山 高原一帯花笑ふ やがて天国神苑になるらむ
瑞光第3回短歌会 昭和6年7月6日
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    雨
さよふけて かぜにこのはのささやくかと まどくるにわにさみだれのふる
小夜更けて 風に木の葉の囁くかと 窓くる庭に五月雨の降る
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    雨
しとしとと さみだれのふるいけのもに むらさきにおうかきつのはなかな
しとしとと 五月雨の降る池の面に 紫匂ふ杜若の花かな
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    雨
さなえだの みどりはあめにいろまして かわずのなくねしきりなりけり
早苗田の 緑は雨に色増して 蛙の啼く音しきりなりけり
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    雨
むかつやま あめにけぶらいたにがわの せせらぐおとのみみみにたかしも
向つ山 雨にけぶらひ渓川の せゝらぐ音のみ耳に高しも
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    雨
ふなびとの いかだながしつくだりゆく ながれはやしもさみだれのなか
舟人の 筏流しつ下りゆく 流れ速しも五月雨の中
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    雨
ひんがしの そらはれにじはみゆれども まだちかやまはあめのふるらし
東の 空はれ虹は見ゆれども まだ近山は雨の降るらし
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    雨
かわのべを あちこちさまようつりびとは ふりだすあめにまようなるらん
川の辺を 彼方此方さまよふ釣人は 降り出す雨に迷ふなるらむ
    「瑞光」 1-3 S 6. 8. 1    雨
しずかなる あめのひなりきひねもすを えがきてよみてたそがれにけり
静かなる 雨の日なりき終日を 描きて詠みて黄昏れにけり
昭和6年8月集
    「明光」60号 S 6. 8. 1    日本寺
あくがれの のこぎりやまのにほんじへ たずねきにけりことしみなづき
あくがれの 鋸山の日本寺へ 訪ね来にけり今年水無月
    「明光」60号 S 6. 8. 1    日本寺
そうぎょうき ひらきてせいそうせんよねん ふりてさびしもこれのやまでら
僧行基 開きて星霜千余年 ふりてさびしもこれの山寺
    「明光」60号 S 6. 8. 1    日本寺
そそりたつ のこぎりやまのがんかには とうきょうわんのしらなみうちよす
そそり立つ 鋸山の眼下には 東京湾の白波打ちよす
    「明光」60号 S 6. 8. 1    日本寺
みはるかす うみのももやのたちこめて とうだいのひのかそけくもひかる
見はるかす 海の面靄のたちこめて 灯台の灯のかそけくも光る
    「明光」60号 S 6. 8. 1    日本寺
ちりのよも はくじつのもとにこころゆく ばかりひたりぬはつなつのやま
塵の世も 白日の下に心ゆく ばかり浸りぬ初夏の山
明光本社第54回月並和歌 昭和6年6月18日
    「明光」60号 S 6. 8. 1    初 夏
つゆばれの そらのあかるさたそがれて なおくれのこるしんりょくのやま
つゆばれの 空の明るさたそがれて なほ暮れのこる新緑の山
    「明光」60号 S 6. 8. 1    初 夏
しんりょくの こまやかにはゆあめはれの むかつやまべにほととぎすなく
新緑の こまやかに映ゆ雨はれの 向つ山辺にほととぎすなく
    「明光」60号 S 6. 8. 1    初 夏
つゆはれて みそらのくももみなつきの みやいよそおうあおばのいろかな
梅雨はれて み空の雲もみな月の 宮居粧ふ青葉の色かな
    「明光」60号 S 6. 8. 1    初 夏
さみだれに あおばしげりてほととぎす なくねはとおくなりにけるかな
五月雨に 青葉重りてほととぎす 啼く音は遠くなりにけるかな
明光本社第54回月並和歌 昭和6年6月17日
    「明光」60号 S 6. 8. 1    雑 詠
やえざくら はゆるこのまのゆうぞらに ふじがねかかるしうんきょうかな
八重桜 映ゆる木の間の夕空に 富士ケ嶺かかる紫雲郷かな
    「明光」60号 S 6. 8. 1    雑 詠
あまつびの ひかりほのめくあかつきの そらうるわしもむらさきのくも
天津日の 光ほのめく暁の 空美しも紫の雲
    「明光」60号 S 6. 8. 1    雑 詠
かくるかと みればみゆなりけむらえる あめのなかなるちちぶれんざん
かくるかと 見れば見ゆなり煙らへる 雨の中なる秩父連山
    「明光」60号 S 6. 8. 1    雑 詠
おおとねの かわなみゆうひにきらめきて しずかにくだるしらほみつよつ
大利根の 川波夕陽にきらめきて 静に下る白帆三つ四つ
    「明光」60号 S 6. 8. 1    雑 詠
すめかみの めぐみたたえてまいうたう にわよりあるるちじょうてんごく
皇神の 恵たたへて舞ひ唄ふ 庭より生るる地上天国
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
なんきょくと ほっきょくさかいにみちひしつ やそじまをまもるわだつみのかみ
南極と 北極境に満干しつ 八十島を守る和田津見の神
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
てんをうつ どとうもかがみのごとくなぐ うみもかわらぬうみにてありけり
天を搏つ 怒涛も鏡の如く凪ぐ 海もかはらぬ海にてありけり
出口師の御更生を祝し
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1 
あめつちを ひとめぐりしてつきはいま あらたなひかりをはなちそめけり
天地を ひとめぐりして月は今 新たな光をはなち初めけり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1
さらにさらに いきのいのちをきみのため よのためたたすきみをほがなん
更にさらに 生きの命を君の為 世の為立たすきみを祝がなん
   「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
はたはたと はばたきゆるくごいさぎの つきのひかりをゆるがしにけり
はたはたと 羽ばたきゆるく五位鷺の 月の光をゆるがしにけり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
たちわりし ごとくすぐなるがんぺきの あおあおしもよつきのひかりに
たち割りし 如く直なる岩壁の 青々しもよ月の光に
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
つゆばれの そらはぬぐえるはりのごと さわやかにしてつきのてれるも
梅雨ばれの 空は拭へる玻璃の如 爽やかにして月の照れるも
   「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
つきをみる ひとのあるらしゆのやどの おばしまゆみるかわのかなたに
月を見る 人のあるらし温泉の宿の おばしまゆ見る川の彼方に
   「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
まつのえの かげいりみだれにわしばを しらじらてらすつきかげさやしも
松の枝の 影入りみだれ庭芝を 白々照らす月光さやしも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
しばくさは つゆしとどにてきぎのかげ ながくもひきぬつきのかたむき
芝草は 露しとどにて樹々のかげ 長くも引きぬ月のかたむき
   「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
ふけりゆく つきのさにわになつながら はやくもじじとなくむしのあり
更けりゆく 月の小庭に夏ながら はやくもぢぢと鳴く虫のあり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
なみのほに くだけくだけてつきかげは こじまのかげにかくろいにける
波の秀に くだけ砕けて月光は 小島の蔭にかくろひにける
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
もりくろく すいでんのもにもちのよの つきのうつりてしろくもてるかな
森黒く 水田の面に望の夜の 月の映りて白くも光るかな
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
めいげつの こよいいずこにながめんと とつおいつしつしばしすぎけり
明月の 今宵いづこに眺めんと とつおいつしつ暫し過ぎけり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
えんにちの ちまたをいでてふとあおぐ そらにこうこうつきのてれるも
縁日の 巷を出でてふと仰ぐ 空に皎々月の照れるも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
みおろせば こくえんはいていまきしゃは つきてるおかにさしかかりおり
見下ろせば 黒烟吐いて今汽車は 月照る丘にさしかかりをり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
ひとけなき よふけのほどうのつゆにぬれ つきのひかりのながれているも
人気なき 夜更けの舗道の露に濡れ 月の光の流れて居るも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
りんりつの えんとつくろくこうじょうの いらかはつきにひかりておれり
林立の 烟突黒く工場の 甍は月に光りて居れり
   「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
つきをみる そらにうるさしでんせんの くろくあやなすぎんざがいかな
月を見る 空にうるさし電線の 黒く綾なす銀座街かな
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
すずかぜは かやをゆるがせつきのかげ へやいっぱいにうつしておりけり
涼風は 蚊帳をゆるがせ月の光 部屋一パイに射して居りけり
   「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
でんちゅうの かげはげっかのみちのもに ながながとしてしるしているも
電柱の 影は月下の路の面に 長々として印して居るも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
びるでぃんぐの まどちょうまどはほかげなく つきよのそらにいかめしくたつ
ビルデングの 窓てふ窓は灯光なく 月夜の空にいかめしく立つ
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
ほりのべの ていげきあたりつきかげを ふみゆくにさんのひとのあるらし
濠の辺の 帝劇あたり月光を ふみゆく二三の人のあるらし
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
とうろうの ほかげはあわくつきのよの にわのしげりはしっとりとしており
灯籠の 灯光は淡く月の夜の 庭の茂り葉しつとりとして居り
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
へいのかげ くろぐろとしてあざやかに げっかのろめんをなかばふさぐも
塀の影 黒々として鮮やかに 月下の路面を半ばふさぐも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
なつのよの じゅうごやのつきてるよみち すずかぜあびてどらいぶなしけり
夏の夜の 十五夜の月照る夜路 涼風浴びてドライブなしけり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
りょうがわゆ はぎおいせまるよのこみち つきのひかりをふみつくぐれり
両側ゆ 萩生ひ迫る夜の小径 月の光を踏みつくぐれり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
つきのよの うえののもりのきぎのまゆ みずひかるなりしのばずのいけ
月の夜の 上野の杜の樹々の間ゆ 水光るなり不忍の池
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
たかだいゆ みわたすまちはさざなみの ごとくにいらかつきにひかるも
高台ゆ 見渡す街は小波の 如くに甍月に光るも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
くものぞく かたわれつきにえんげきの あるばめんのばっくめにうく
雲のぞく 片割月に演劇の 或る場面のバツク眼に浮く
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
こうえんの べんちにふたりかたるらし つきはおりおりくもにかくろう
公園の ベンチに二人語るらし 月は折々雲にかくろふ
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
ねおんさいんの いろあくどけれそらのつき ながめしまなこうつしみるとき
ネオンサインの 色あくどけれ空の月 眺めし眼うつし見る時
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
さざなみの きらめくつきのおおかわに けたたましくももーたーぼーとゆく
小波の きらめく月の大川に けたたましくもモータボート行く
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    月
げっこうに れーるひかりてていしゃばの よふけはいともしずかなるかな
月光に レール光りて停車場の 夜更けはいとも静かなるかな
瑞光社第1回月並短歌 昭和6年8月15日
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
ごまんトンのせんかん かろがろうかべいる うみのすいあつおもいてみいるも
五万噸の戦艦 かろがろ浮べ居る 海の水圧思ひて見入るも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
いそばたの おおいわこいわにしろじろと みなわをたててなみのよせおり
磯端の 大岩小岩に白々と 水泡を立てて波のよせ居り
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
かぜたちて おきのうねりのおおきくも みえがくれするいさりぶねかな
風立ちて 沖のうねりの大きくも 見えがくれする漁舟かな
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
あさなぎの うみべにたてばよべあれし なごりかもくずのあちこちにみゆ
朝凪の 海辺に立てば昨夜荒れし 名残か藻屑のあちこちに見ゆ
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
うらづたい すなふみてゆくあさまだき ちどりのなくねしきりなりけり
浦づたひ 砂踏みて行く朝まだき 千鳥の啼く音しきりなりけり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
だんがいゆ のぞけばしろきあわたてて すそかむなみのものすごきかな
断崖ゆ のぞけば白き泡立てて 裾噛む波のものすごきかな
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
ぼうそうの しまやまくっきりうきいでて とうきょうわんにゆうかぜつよしも
房総の 島山くつきり浮き出でて 東京湾に夕風強しも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
まほかたほ なみまにみえてうみどりの はねゆるやかにまうもまひるま
真帆片帆 波間に見えて海鳥の 翼ゆるやかに舞ふも真昼間
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
じびきあみ ひきつるぎょふのかげながく ゆうひのかげのまあかなるいろ
地引網 曳きつる漁夫の影長く 夕陽の光の真紅なる色
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
ほのぼのと そらあかねしてきりかかる うみのおもてはしずかにあけゆく
ほのぼのと 空茜して霧かかる 海の面は静かに明けゆく
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
いわをかむ なみのしぶきのもうもうと たちてかくれぬちへいせんかな
巌を噛む 波のしぶきの濛々と 立ちてかくれぬ地平線かな
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
まつかげの みぎわのすなにしおのかを したしみながらしばしやすらう
松かげの 汀の砂に潮の香を したしみながら少時やすらふ
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
すさまじく ふくはまかぜになみたかく はるかのしまやまのみつはきつも
すさまじく 吹く浜風に波高く はるかの島山呑みつ吐きつも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
なみのほに きらめくきょくこうさやかにて あらしのあとのあさなぎのうみ
波の秀に きらめく旭光さやかにて 嵐の後の朝なぎの海
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
きしをうつ なみのほみえてうみかぜの まどにふきいるなつのきしゃかな
岸を打つ 波の秀見えて海風の 窓に吹き入る夏の汽車かな
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
うみのもは きりたちこめてぎょそんには ほかげまたたきみるもやまのえ
海の面は 霧たちこめて漁村には 灯光またたき見るも山の上
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
つきはいま くもにかくろいうみくらく きしうつなみのおとのきこゆる
月は今 雲にかくろひ海暗く 岸打つ波の音のきこゆる
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
だんがいの うえあぶなげにひともとの おいまつみえてねもあらわなる
断崖の 上危げに一本の 老松見えて根もあらはなる
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
ゆうきゅうと よせてはかえすわだつみの なみにきざみしいわおのすがたよ
悠久と よせてはかへす和田津見の 波に刻みし巌の姿よ
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
おきとおく ひとすじなみまにうかべるは しまかあらずかしるよしもなし
沖遠く 一筋波間に浮べるは 島かあらずか知るよしもなし
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    海
なぎさには こいわおおきもよすなみの みなわのなかにぬれてひかれり
渚には 小岩多きも寄す波の 水泡の中に濡れて光れり
“Lightening” (August 6, 1931)
稲妻 (Inazuma)
Zuikô (Auspicious Light), Issue 1, Number 4, September 1, 1931
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涼みつゝ 街中行 けば電線の 針金黒く稲妻の光る
As I walk the streets / To cool myself, / Here and there / Black are the electric wires / In the lightening.
 
いつしかに み空 は星のかくろひて 早稲をりおり稲妻光らすも
From time to time / The stars, hidden in the sky, / Now and then / Lightening shines /
On the rice paddies.
 
遠山は 稲田の崖 につらなるを 稲妻光りて目地にしるきも
The rice paddies, / Brightened to their limits, / The range of vision / To the distant mountains / Is indeed muddied.
 
此里は 蛍の名所 と聞きつるに 稲妻しげく本意なく過ぐるも
Said to be famous / For fireflies, as the / Lightening becomes plentiful, / They dart here and / There through this village.
 
高く低く 飛び交 ふ蛍めぐしもと 眺むる未に光るも稲妻
High and low / Flirting around each other / Precious indeed the fireflies / As I view them / Shining in the lightening.
 
むし暑き 今宵風 なく雲低う 流るる末にひらめく稲妻
Hot and humid, / Tonight with no wind / Lowly the clouds / Flow in the sky, / Glitters the lightening. 
 
はたた神 速鳴り やめど稲妻の きらめきしげく雲の厚きも
The summer thunder from / Heaven nearby has stopped / Though the lightening / Still glitters profusely / Through the thick clouds.

をりをりに 稲妻 光りて大空は 雲足はやく木の葉散るなり
Through the great expense of sky, / Brightened from time to time / With lightening, the clouds / Shift quickly, / Leaves fall from the tree.
 
むし暑き 此夕闇 に稲妻の 光りて木の葉のさゆらぎを見る
I see the leaves on the trees / Rustle in the light / Of the lightening / In the hot and humid / Darkness of tonight.
 
おどろおどろ 遠 鳴る雷ひびかひて 雲のはたてに稲妻の光る
Dreadfully / The faraway thunder / Roars, and / All the clouds of the heavens / Shine in the lightening.
 
堪へやらぬ 暑さ も今宵稲妻の きらめき初めて和らぎにける
The flashes of lightening / Alleviate for the first / Time this evening / The unbearable / Hot weather.
 
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
えんばたに こらしずかにもいぶかしと みればちいさきほたるかごあり
縁端に 子等静かにもいぶかしと 見れば小さき蛍籠あり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
よいやみの くろぐろとしてほたるびの あちこちまたたきもりしずかなり
宵闇の 黒々として蛍火の あちこちまたゝき森静かなり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
あしのまを とびかうほたるのかげみだれ さざなみたちてかわかぜのふく
芦の間を 飛び交ふ蛍のかげ乱れ 小波立ちて川風の吹く
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
こえのまを ほたるびひとつまいゆくを みるまにはしのかなたにきえけり
声の間を 蛍火一つ舞ひゆくを 見る間に橋の彼方に消えけり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
くさむらの つゆすうほたるもひとのめを いざなうひかりをやみにはなつも
草むらの 露吸ふ蛍も人の目を 誘ふ光を闇に放つも
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
すいすいと いなだのうえのやみぬうて ほたるびたかくひくくまいゆく
すいすいと 稲田の上の闇縫うて 蛍火高く低く舞ひ行く
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
きみこうて ときまつがえにほたるびの もゆるひかりのわれにてありけり
君恋うて 時松ケ枝に蛍火の 燃ゆる光の吾にてありけり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
つゆくさの かげにかそけきかげはなつ ほたるにもにしわれのいまかな
露草の かげにかそけき光はなつ 蛍にも似し吾の今かな
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
よなよなに みをこがしつつやみにいる ほたるをわれにたとえてもみし
夜なよなに 身を焦しつつ闇に居る 蛍を吾にたとへても見し
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    蛍
いとちさき ほたるむしにもこいあるか ゆうさりくればみをこがすなり
いと小さき 蛍虫にも恋あるか 夕さりくれば身を焦すなり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
めいこうを みておどろけりあららぎの かいいんいちようのはがきでことわる
明光を 見て驚けりあらゝ木の 会員一葉のはがきで断る
   「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
しきうしの ながれにさかえしあららぎの としふるままにむしばみてけり
子規大人の 流れに栄えしあらゝ木の 年古るまゝに虫ばみてけり 
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
よじょうはん しきのかじんのあたまには きょじんをいるるよちのなからん
四畳半 式の歌人の頭には 巨人を容るゝ余地のなからん
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
むかしより じりゅうにちょうえつなすひとを はいせきするはしょうじんのつね
昔より 時流に超越なす人を 排斥するは小人の常
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
だいしぜん ふうぶつじゆうにうたうひと でぐちしおいてたにみざるいま
大自然 風物自由に歌ふ人 出口師おいて他に見ざる今
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
じゆうほんぽう あらゆるものをうたによむ いだいなるかなでぐちふうそう
自由奔放 あらゆるものを歌に詠む 偉大なるかな出口風宗
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
まことなるだいげいじゅつは しんきゅうもりゅうはも いっさいちょうえつなしてあれなん
真なる大芸術は 新旧も流派も 一切超越なして生れなむ
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
すぐれたる ひとのいずればおとさんとなす このくにびとのしまぐにこんじょう
傑れたる 人の出づれば落さんとなす 此国人の島国根性
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
ままごとの ようなうたおばもてあそび たいかぶるさまむしろきざなり
まゝごとの やうな歌をばもてあそび 大家ぶるさまむしろ気障なり
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    あらゝ木へ
しょうへきを てっしてしんじんむかえずば やがてかだんはおとろうるならん
障壁を 徹して新人迎へずば やがて歌壇は衰ふるならん

    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
べそべそとぐちやなきごとをならべたのが せいかつはのうたというのか
べそべそと愚痴や泣言を並べたのが 生活派の歌と言ふのか
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
うすっぺらな ひとりよがりのぎこうほんいのうたのなんとおおいいま
薄つぺらな 独りよがりの技巧本意の歌の何と多い今
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
うたうてかいびかんのないうた いんうつなきのめいるようなうたはいやだ
歌うて快美感のない歌 陰鬱な気の滅入るやうな歌は嫌だ
   「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
あかるいほがらかなうたがなぜうたえないのか いまのかじんは
明るい朗かな歌が何故うたへないのか 今の歌人は 
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
きゅうはちょうをぬけたつもりで しんぱちょうのろうごくになんとうめいていることよ
旧派調を抜けたつもりで 新派調の牢獄に何と呻いて居る事よ
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
ぎこちないひねくれたようなうたをみると しんけいがいらいらしてくる
ギコチないヒネクレタやうな歌を見ると 神経がいらいらしてくる
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
せいきまつじせいてきたんかは いっぽいっぽぼけつへはいるのだろう
世紀末的自慰的短歌は 一歩々々墓穴へ入るのだらう
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
たんかかいのかくめいてききょじんが もはやでてもいいころとおもうおれ
短歌界の革命的巨人が もはや出てもいゝ頃と思ふ俺
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
いっさいをちょうえつせよ りゅうはもけいこうもそこにだいげいじゅつがうまれるとおもう
一切を超越せよ 流派も傾向も其処に大芸術が生れると思ふ
    「瑞光」 1-4 S 6. 9. 1    出放題
いまさらまんようこきんでもないというてしんぱでもない ほかにてんちがありそうなきがする
今更万葉古今でもないと言うて新派でもない 外に天地がありさうな気がする
月の家風宗更生祝賀和歌 昭和6年7月4日
   「明光」61号 S 6. 9. 1    更生を祝する意
ずいうんの まくひきまわしあまつびと いわうめでたきこれのみまつり
瑞雲の 幕ひきまはし天津人 祝ふめでたきこれの御祭 
    「明光」61号 S 6. 9. 1    更生を祝する意
いくたびも かさなれかしとねがうなり きみがことぶきいわうよきひを
いくたびも 重なれかしと願ふなり 君が寿祝ふよき日を
    「明光」61号 S 6. 9. 1    更生を祝する意
ごろくじゅう はなたれこぞうとのたまえる そのおことばのいともたのもし
五六十 鼻たれ小僧と宣玉へる 其御言葉のいともたのもし
    「明光」61号 S 6. 9. 1    更生を祝する意
やおよろず かみもうたわんひとまわん きみこうせいのきょうのみまつり 
八百万 神も謳はん人舞はん きみ更生の今日の御祭
昭和6年9月集
    「明光」61号 S 6. 9. 1    霧の高原
うきしまの ただよえるごとふかぎりの はれまをのぞくやまのいただき
浮島の 漂へるごと深霧の はれ間をのぞく山の嶺
    「明光」61号 S 6. 9. 1    霧の高原
いきかいの ひともくもくとあゆみつつ しずかなりけりきりのこうげん
行き交ひの 人黙々と歩みつつ 静かなりけり霧の高原
    「明光」61号 S 6. 9. 1    霧の高原
からまつの はやしにさぎりただよいて やまのしじまをひぐらしのこえ
唐松の 林にさ霧漂ひて 山のしじまを蜩の声
   「明光」61号 S 6. 9. 1    霧の高原
ゆくみちの かたがわみぎりのうみにして こへんをあゆむここちするなり
行く路の 片側深霧の海にして 湖辺を歩む心地するなり
明光本社第55回月並和歌 昭和6年7月22日
    「明光」61号 S 6. 9. 1    夏の月
こうこうと つきてるしたにごいさぎの いなだにかげをおとしまいゆく
皎々と 月照る下に五位鷺の 稲田に影をおとし舞ひゆく
    「明光」61号 S 6. 9. 1    夏の月
いねがてに まどのとくればあまのがわ いまわたらんとするなつのよのつき
いねがてに 窓の戸くれば天の川 今渡らんとする夏の夜の月
    「明光」61号 S 6. 9. 1    夏の月
つきいでて いなだのうえのほたるびは かげをひそめてみえずなりけり
月出でて 稲田の上の蛍火は 光をひそめて見えずなりけり
    「明光」61号 S 6. 9. 1    夏の月
おおぞらの つきよりふくかそよそよと たかどのにいるかぜのすがしも
大空の 月より吹くかそよそよと 高殿に入る風の清しも
明光本社第55回月並和歌 昭和6年7月23日
    「明光」61号 S 6. 9. 1    雑 詠
もしおたく けむりたゆたうゆうぞらに しんげつのかげあわくかかれる
藻塩焚く 煙たゆたふ夕空に 新月の光淡くかかれる
    「明光」61号 S 6. 9. 1    雑 詠
よのいろに あわのしまやまつつまれて とうきょうわんにいさりびまたたく
夜の色に 安房の島山つつまれて 東京湾に漁火またたく
    「明光」61号 S 6. 9. 1    雑 詠
さんすいを えがけるふでのたえなれば しきしのなかのえのひととなれり
山水を 描ける筆の妙なれば 色紙の中の画の人となれり
    「明光」61号 S 6. 9. 1    雑 詠
くものみね くずれてはたちくずれては たちつつくれぬうなばらのはて
雲の峰 くづれては立ちくづれては 立ちつつ暮れぬ海原の涯
   「明光」61号 S 6. 9. 1    雑 詠
えがきたし よみたしされどいかにせん みわざのしげくなりまさるいま
描きたし 詠みたしされど如何にせん 神業のしげくなりまさる今
短歌とは文字の絵画にして思想の美的表現ならん
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
たんたんと あかつちみちのはるけさを ほこりまわせつばしゃとおみゆく
坦々と 赤土路のはるけさを ほこり舞はせつ馬車遠み行く 
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
 はなにはに あきのいろかのこまやかに はぎのにおえるこのましみおり
花に葉に 秋の色香のこまやかに 萩の匂へる好ましみ居り 
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
あきのひの はりどかすれてながれくる たたみにひとつがのむくろみゆ
秋の陽の 玻璃戸かすれて流れくる 畳に一つ蛾のむくろ見ゆ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
あきさめに しずけきやどのよもすがら すぎしおもいのわくもはてなき
秋雨に 静けき宿の夜もすがら 過ぎし思ひの湧くもはてなき
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1 
ちょうらくの いろはひすがらあきののを そむるがままにあめにくれけり
凋落の 色は日すがら秋の野を 染むるがままに雨に暮れけり 
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
くれぎわや もやひたすらとおそいきて おばなのしろきがめにおぼろなり
暮れぎはや 靄ひたひたと襲ひきて 尾花の白きが眼におぼろなり
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
さしかかる やまじすすきのしげりあい むらさきやまなみほのまによきも
さしかかる 山路芒の茂りあひ むらさき山並穂の間によきも 
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
すすきおう ののたたずみにふとみいでし ききょうのはなにほほえまいぬる
芒生ふ 野の佇みにふと見出でし 桔梗の花にほほゑまひぬる
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1 
なつあきの くさいろひにひにみだれゆく ののもをわびてほのゆるみけり
夏秋の 草色日に日に乱れゆく 野の面をわびて歩のゆるみけり
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1  
うすきばむ やますそむらになんぼんの かきのきありやみなうれており
うす黄ばむ 山裾村に何本の 柿の木ありやみな熟れて居り
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
そらきよく うつるかりたにひとすじの かげひらめきぬたひばりならん
空清く うつる刈田に一筋の 影ひらめきぬ田雲雀ならむ 
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1 
かんそんの ゆうべをなけるひぐらしに おわれおわれてまちにいでけり
寒村の 夕べを啼ける蜩に 追はれおはれて町に出でけり
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
かぜにおれ しもにおびえしすすきのに ゆめをおうなるたたかいのあと
風に折れ 霜におびえし薄野に 夢を追ふなる戦のあと 
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1 
おれのこる かれあしさむくいけにうつる そらにいとひくみずまわしむし
折れ残る 枯葦寒く池にうつる 空に糸引く水まはし虫
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
あきなれや てるひはつちのおもにして にわほるてさきのつめたかりける
秋なれや 照る陽は土の面にして 庭掘る手先の冷たかりける
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
ぜっぺきの ところどころにもみぢはえ こんじょうのそらたかくすみおり
絶壁の ところどころに紅葉映え 紺青の空高く澄み居り
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
みずのもの うえさりげなにせいれいの おさむるはねにゆうひきらめく
水の藻の 上去りげなに蜻蛉の をさむる羽に夕陽きらめく
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
まるのうちの まつまをひらめくじどうしゃの らいとのひすじのもやにきえつつ
丸の内の 松間をひらめく自動車の ライトの灯筋の靄に消えつつ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
うごこうともしないあわぐもがながれている とびがすうっとわをえがく
動かうともしない淡雲が流れてる 鳶がすうつと輪をゑがく
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
すんだくうきのなかにのうふらがへいわにうごいている まるでごーがんのえだ
澄んだ空気の中に農夫等が平和に動いてゐる まるでゴーガンの画だ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
はさみをいれたしいのまばらばに すいているこんぺきのそら
鋏を入れたての椎のまばらな葉に 透いてゐる紺碧の空
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
すっぽりとかけたよぎのかんしょくに とてもしたしさをかんずるしょしゅう
すつぽりと掛けた夜着の触感に とても親しさを感ずる初秋
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
むしのそうおんのなかに ひときわすぐれているこおろぎのかいおんにうっとりとなる
虫の騒音の中に 一際すぐれてゐる蟋蟀の快音にうつとりとなる
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
とんぽつるこのくろいかおがならんで かきのなかをきんぎょにそそいでいるめ
蜻蛉釣る子の黒い顔が並んで 垣の中を金魚に注いでゐる眼
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
うっすらと あきのいろにそまったなだらかなおかのきょくせんがながれているあおぞら
うつすらと 秋の色に染つたなだらかな丘の曲線が流れてゐる蒼空
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
すいすいとあかとんぼがじゅうだいじけんでもおこったようにそらをいそぐ
すいすいと赤蜻蛉が重大事件でも起つたやうに空をいそぐ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
かんぼくたい あかきむらさきのいろがとけあって ひにかがやいているこうげん
潅木帯 赤黄紫の彩が溶け合つて 陽にかがやいてゐる高原
   「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    秋
ぷらたなすのきいばがへんぺんとして ほそうろにおどっているごごのよじごろ
プラタナスの黄葉が片々として 舗装路に躍つてゐる午後の四時ごろ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
まるくすがなんだむっそりにがなんだ ぶらんこのりょうたんのゆうれいではないか
マルクスが何だムツソリニが何だ ブランコの両端の幽霊ではないか
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
ぱんでいっさいのかいけつがかのうとおもったたんじゅんのずのうのもちぬしそれがまるくすだ
パンで一切の解決が可能と思つた単純の頭脳の持主それがマルクスだ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
おれはにほんのしそうぜんどうをロシアにもっていったらとときおりおもうことがある
俺は日本の思想善導を露西亜に持つて行つたらと時折思ふ事がある
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
それじしんすてられていてきのつかぬかいきゅうがある せいじかとそうりょ
それ自身捨てられてゐて気の附かぬ階級がある 政治家と僧侶
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
たっけんとどうさつりょくのかけたせいじかをいただくこくみんよ おまえほどふこうなものはあるまい
達見と洞察力の欠けた政治家を戴く国民よ お前程不幸な者はあるまい
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
なぽれおんもかいざーもまるくすも おれたちがのぼってきたかいだんのふみいしのひとつひとつにすぎない
ナポレオンもカイザーもマルクスも 俺達が登つて来た階段の踏石の一つ一つに過ぎない
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
そびえっととはせかいへいどんのゆうれいだそうだ ゆうれいはよのあけるまでだ
ソビエツトとは世界併呑の幽霊ださうだ 幽霊は夜の明けるまでだ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
まるくすのりろんをやぶるりろんができいないくにに はかせがなんぜんにんいることよ
マルクスの理論を破る理論が出来ない国に 博士が何千人居る事よ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
しほんとろうどうのとうそうをつつけるがいい つかれてどちらもかいしょうするだろう それからだほんとうなものがうまれるのは
資本と労働と争闘を続けるがいい 疲れてどちらも解消するだらう それからだ本当のものが生れるのは
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    共産主義其他
ちょうすぴーどでほうかいせんにむかっているせかいよ おそろしいがそうぞうのためならがまんもしよう
超スピードで崩壊線に向つてる世界よ 恐ろしいが創造の為なら我慢もしよう
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    社 会
こうそうなびるでぃんぐをめざして つまがけさつくろったくつしたをはいてゆくさらりーまん
宏壮なビルディングを目指して 妻が今朝繕つた靴下を穿いてゆくサラリーマン
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    社 会
まてんろうがつぎつぎにたつ ひんじゃくなよみせしょうにんがふえるのとたいしょうしてみる
摩天楼が次々に建つ 貧弱な夜見世商人が増えるのと対照して見る
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    社 会
しゃかいはただあえいでいる つかれたかおきぼうのないひとみ ああどこへゆく
社会はただ喘いでゐる 疲れた顔希望のない眸 アヽ何処へ行く
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    社 会
ひぶごじゅっせんのかねをかりてえろのかにじゅうえんをなげうつふかかいなしんり
日歩五拾銭の金を借りてエロの香に十円を抛つ不可解な心理
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    日本よ
せかいはるてんする かいがだあかもしろもくろもみんなこうせいにひつようなえのぐのそれだ
世界は流転する 絵画だ赤も白も黒もみんな構成に必要な絵の具のそれだ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    日本よ
おろかなるきょうさんしゅぎしゃよ あかそれいっしょくではえにならないではないか
愚なる共産主義者よ 赤それ一色では絵にならないではないか
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    日本よ
にほんよおまえはせかいをえがくえしだ あらゆるしきさいをくししてかけばいいのだ
日本よお前は世界を描く画師だ あらゆる色彩を駆使して描けばいゝのだ
瑞光和歌第2回 昭和6年9月10日
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    雁
うちかえす はねしろめきてうみひくう つきのよをゆくかりがねのむれ
打ちかへす 羽白めきて湖低う 月の夜を行くかりがねの群
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
ひととせの おもいふかしもあまのがわ わたりてかたらうひこぼしおりひめ
ひととせの 思ひ深しも天の川 渡りて語らふ彦星姫星

    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
たなばたの こよいくもなくはればれと かようひこぼしめでたくぞおもう
七夕の 今宵雲なくはればれと 通ふ彦星めでたくぞ思ふ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
としごとに かたきちぎりをかけまくも あまのかわらにほしあいのよい
年毎に かたき契りをかけまくも 天の河原に星合ひの宵
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
いもがりに おもいのはしをあまのがわ かけてぞわたるたなばたのよい
妹がりに 思ひの橋を天の川 かけてぞ渡る七夕の宵
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
やすがはら ちかいもひめていわがねの かたきちぎりをこよいたなばた
八洲河原 誓ひも秘めていはがねの かたき契りを今宵七夕
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
あまのがわ ちぎりもあさきなつのよは はやかささぎのなくぞかなしき
天の川 契りも浅き夏の夜半 はや鵲の啼くぞかなしき
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
ささのはの つきにさゆれてこよいはも たなばたまつりのそらさゆるいろ
笹の葉の 月にさゆれて今宵はも 七夕祭の空冴ゆる色
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
ひとのよの みそらのほしにもこいありと おもいてあおぐあまのがわかな
人の世の み空の星にも恋ありと おもひて仰ぐ天の川かな
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
たなばたの ほしにもまがうはかなさの こいのためしのあるをおもえり
七夕の 星にも紛ふはかなさの 恋のためしのあるを思へり
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七夕詠草
たなばたの こよいふうがのうたえんに はるかにひびくきしゃのおとかな
七夕の 今宵風雅の歌筵に はるかに響く汽車の音かな
瑞光臨時歌会詠草第4回 昭和6年8月20日
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    七 夕
たなばたを いわうしきたりいつまでも みくににつづかまほしとねぎけり
七夕を 祝ふしきたりいつまでも 御国につづかまほしと願ぎけり
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
やみのそこに ながるるむしのこえほそみ にわべのあきのよはふけにける
闇の底に 流るる虫の声細み 庭べの秋の夜は更けにける
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
つきのよに あきをわびしむみみにいる かすれかすれのまつむしのこえ
月の夜に 秋をわびしむ耳に入る かすれかすれの松虫の声
   「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
うきたちて ひかりもさやかなまんげつの あかきにわべにむしのもろごえ
浮き立ちて 光もさやかな満月の 明き庭辺に虫のもろ声
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
つゆくさの つゆすうむしのなにむしと じっとみいればほたるむしなる
露草の 露吸ふ虫の何虫と じつと見入れば蛍虫なる
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
あきのよを ふみにしたしむめをみだす がのにくしもとはたきたりけり
秋の夜を 書にしたしむ眼を乱す 蛾の憎しもとはたきたりけり
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
うつらうつら むしのなくねにあきのよの しずけさをしばししたしみており
うつらうつら 虫の啼く音に秋の夜の 静けさを少時親しみて居り
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
つきのよを すみとおるねはすずむしか うつろごころにたたずみており
月の夜を すみ透る音は鈴虫か 空ろ心に佇みて居り
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
むしのうた ものさんとしつむしのこえ ききいるたまゆらなゐにきえけり
虫の歌 ものさんとしつ虫の声 聴き入るたまゆら地震に消えけり
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
おれはおまえをみるごとそのゆーもらすなすがたにいつもほほえみをきんじえない かまきりよ
俺はお前を見る毎其ユーモラスな姿にいつも微笑を禁じ得ない 蟷螂よ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    虫詠草
つきのよを うけるひかりとたわむれつ よもすがらなるもものむしのね
月の夜を 浮ける光とたはむれつ 夜もすがらなる百の虫の音
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
ぜんであり あくでありとてひとをさばく けいらはいつにえらくなりしよ
善であり 悪でありとて人を審判く 卿等はいつに偉くなりしよ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
かしまなどもうでしをひなんするひとよ あまりのげんにわれいうべきをしらず
鹿島など詣でしを非難する人よ 余りの言に吾言ふべきを知らず
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
りょうしんと ほうきのゆるすはんいにての じゆうにたびやかみまいりすも
良心と 法規の許す範囲にての 自由に旅や神詣りすも
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
ひとをおもう まことあるきみわれにきて なぜしたしくもえりひらかざる
人を思ふ 誠ある君われに来て 何故親しくも襟開かざる
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
とおはなれ やみよにいぬのそれのごと ただほえさけぶひとをはかなむ
遠はなれ 暗夜に犬のそれの如 ただ吠え叫ぶ人をはかなむ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
はくがいと ごかいのかこみのなかにいて われほがらかにほほえまいおり
迫害と 誤解の重囲の中に居て われ朗らかにほほゑまひをり
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
あめつちの ふかきこころのなどちさき ひとのまなこにそこうつらめや
天地の 深き心のなど小さき 人の眼に底映らめや
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
あだのために いのりしせいじゃのだいひなる こころのおくのしのばるるかな
仇の為に 祈りし聖者の大悲なる 心の奥の偲ばるるかな
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
せいめいを かけてもずいこうつぶすとう ひとありやすきあたいのいのちよ
生命を かけても瑞光つぶすとふ 人あり安き価の命よ
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1    或る人達へ
ぱりさいの ひとよせいてんいまいちど なおひのひかりにみなおされかし
パリサイの 人よ聖典今一度 直霊の光に見直されかし
瑞光第5回歌会詠草 昭和6年9月16日
    「瑞光」 1-5 S 6.10. 1
このちさき むしにもれいこんあるのかと じっとみておりでんきゅうのかさ
此の小さき 虫にも霊魂あるのかと じつと見て居り電灯の傘 
昭和6年10月集
    「明光」62号 S 6.10. 1    秋
にぶいあきのひあかつちのしゃめん おばながかすかにゆれている
にぶい秋の陽赤土の斜面 尾花がかすかにゆれてゐる
    「明光」62号 S 6.10. 1    秋
しっとりと つゆおもくはぎがうつっている あさのいけのも
しっとりと 露重く萩がうつつてゐる 朝の池の面
    「明光」62号 S 6.10. 1    秋
たもはたも もりのいろもすんでいる のうふがうまのせにわらをつんでいるあき
田も畠も 森の色も澄んでゐる 農夫が馬の背に藁を積んでゐる秋
    「明光」62号 S 6.10. 1    秋
しずかなあきびよりだ うすらびがななめにだんだんばたけをてらしている
静かな秋日和だ 淡陽が斜に段々畑を照らしてゐる
    「明光」62号 S 6.10. 1    秋
さきたてのしおんのはなをめぐって ちいさなしろちょうがにさんびきあきをとんでいる
咲きたての紫苑の花をめぐつて 小さな白蝶が二三疋秋をとんでゐる
    「明光」62号 S 6.10. 1    秋
くもがうごこうともしないそら ちいさなえきのうえにとんぽがむれている
雲が動かうともしない空 小さな駅の上に蜻蛉が群れてゐる
    「明光」62号 S 6.10. 1    秋
さわやかなあきのこうがい おがわのみずにはっきりうつっているそらとくも
爽やかな秋の郊外 小川の水にハッキリ映つてゐる空と雲
明光本社第56回月並和歌 昭和6年9月5日
    「明光」62号 S 6.10. 1    夕 立
みずのさと かすみがうらにゆうだちて つくばのやまはかくろいにけり
水の郷 霞ケ浦に夕立ちて 筑波の山はかくろひにけり
    「明光」62号 S 6.10. 1    夕 立
はらはらと つゆのたまだれまだしげく このまにきよしゆうづきのかげ
はらはらと 露の玉だれまだしげく 木の間に清し夕月の光
   「明光」62号 S 6.10. 1    夕 立
ゆうだちの すぐるのはやきあめけむる やまのかなたにみゆるあおぞら
夕立の すぐるのはやき雨けむる 山の彼方に見ゆる蒼空
    「明光」62号 S 6.10. 1    夕 立
ゆうだちに よせてはかえすいねのたの ほなみあかしていなずまのひかる
夕立に よせてはかへす稲の田の 穂並あかして稲妻の光る
   「明光」62号 S 6.10. 1    雑 詠
ひらひらと りようらのきぬにてんにょまう すがたうかべりかみのみそのに
ひらひらと 綾羅の衣に天女舞ふ 姿うかべり神の御苑に
    「明光」62号 S 6.10. 1    雑 詠
こうせいの きみにゆかりのこのつきの みずみずしもよじゅうにやのつき
更生の 君にゆかりのこの月の 瑞々しもよ十二夜の月
    「明光」62号 S 6.10. 1    雑 詠
みずのさと めぐりてかとりかしまなる みみやにもうでぬなつのひとひを
水の郷 めぐりて香取鹿島なる 神宮に詣でぬ夏の一日を
前月歌壇抄
    「明光」62号 S 6.10. 1    瑞 光
はたはたと はばたきゆるくごいさぎの つきのひかりをゆるがしにけり
はたはたと 羽ばたきゆるく五位鷺の 月の光をゆるがしにけり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
こうほねの あおきはいけのみずにすき てんてんとしてきばなのうける
河骨の 青き葉池の水に透き 点々として黄花の浮ける
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
ものがたり めけるふうちよささやかな しゅぬりのどううみずのべにたち
物語り めける風致よ小やかな 朱塗の堂宇水の辺に建ち
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
ふるぬまを つつむよのいろまだあさく さゆるるあしのはなしろきかな
古沼を つつむ夜の色まだ浅く さゆるる芦の花白きかな
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
でんせつの おおかたあらんみずあおく よどみてふるものただよえるいけ
伝説の おほかたあらむ水青く 淀みて古藻のただよへる池
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
こんもりと こだれおちこちみずぎわを かげくまどりていけしずかなり
こんもりと 木垂れをちこち水際を 蔭隈どりて池静かなり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
てんてんと つりびとじっとあきのそら うつれるいけにいとたれており
点々と 釣人じつと秋の空 うつれる池に糸垂れて居り
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
よしきりの あしまにないてゆうさむく むかつみぎわはもやにかくれぬ
よしきりの 芦間に啼いて夕寒く 向つ汀は靄にかくれぬ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
ぼんやりと はやしのかげのつきまだき ゆうべのいけにうつりておりけり
ぼんやりと 林の影の月まだき 夕べの池にうつりて居りけり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
ちからなく やなぎのえだのゆれもみえず いけにうつれるいくすじのあり
力なく 柳の枝のゆれも見えず 池に映れるいく条のあり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    古 池
たけながき ふるものゆらゆらいけのそこに うごめくさまのぶきみなるかな
丈長き 古藻のゆらゆら池の底に うごめく状の無気味なるかな
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    武蔵野
むさしのを ここにみいでぬすすきおう ややにひろらののにこころゆく
武蔵野を 此処に見出でぬ芒生ふ ややにひろらの野に心ゆく
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    武蔵野
ゆけどゆけど もりとはたけをおがわぬい あきはゆたかにむさしのをただよう
行けどゆけど 森と畑を小川縫ひ 秋は豊に武蔵野を漂ふ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    武蔵野
あかつちの おかをのうふのまぐさおい とぼとぼいりぬあおぞらのなかへ
赤土の 丘を農夫の馬草負ひ とぼとぼ入りぬ蒼空の中へ
   「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    武蔵野
すがれいる なすのはたけにさむざむと あきびうとくもながれているかな
す枯ゐる 茄子の畠に寒々と 秋陽うとくも流れて居るかな
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    武蔵野
くろつちの はたけありあおあおさらだなの ここひとところあきらしからず
黒土の 畠あり青々サラダ菜の 此処ひとところ秋らしからず
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    武蔵野
かれあしを むごきがまでにいけにうめ あわただしければんしゅうのゆく
枯葦を むごきがまでに池に埋め あわただしけれ晩秋のゆく
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    武蔵野
ひとつふたつ みつあんてなにせいれいの とまりていれりそらたかくすむ
一つ二つ 三つアンテナに蜻蛉の とまりて居れり空高く澄む
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    武蔵野
あさぎりに ひびかいやおやのにぐるまの きしりはみみにしばしなりけり
朝霧に ひびかひ八百屋の荷車の きしりは耳に少時なりけり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    武蔵野
くりまつたけ などのそちこちみえそめて ちまたにしたしもあきのおとずれ
栗松茸 などのそちこちに見え初めて 巷にしたしも秋の訪れ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
のぼりゆく ままにもみじのいろふかみ あきおくやまにいまさかりなり
登りゆく ままに紅葉の色深み 秋奥山に今盛りなり

    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
とうとうと けごんのたきはふたあらの とわのしんぴをかたるべらなり
鼕々と 華厳の滝は二荒の 永遠の神秘を語るべらなり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
かがみなせる こめんさやかにあきばれの そらともみじのやまなみうつすも
鏡なせる 湖面さやかに秋晴の 空と紅葉の山並うつすも
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
しらかばの こずえきばみてこもれびの くまざさのえにあわくもさしおり
白樺の 梢黄ばみて木もれ陽の 熊笹の上に淡くもさし居り
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
やまあいに こばるといろのくものみね すむあきぞらのゆうべにてれるも
山間に コバルト色の雲の峰 澄む秋空の夕べに照れるも
   「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
おおいなる いわのしゃめんのえにあかく もみじのもえてゆうひにてれる
大いなる 岩の斜面の上にあかく 紅葉の燃えて夕陽に照れる 
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
あかきあおに ぜんざんそまりてはなさかる はるにもまさるとみるもあきのひ
赤黄青に 全山染まりて花盛る 春にも勝ると見るも秋の日
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
こんじょうの そらをうしろにもみじせる やまつらなりてあきびにかがよう
紺青の 空を後に紅葉せる 山連りて秋陽にかがよふ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
とぎすめる かがみのごときゆのこみれば あきのしらねのすそのうつれる
研ぎすめる 鏡の如き湯の湖見れば 秋の白根の裾の映れる
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
むらさきの ゆうべのいろはくれなえる やまのもみじばつつみかねつつ
紫の 夕べの色はくれなへる 山のもみぢ葉包みかねつつ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
つづらおり やまのぼらいついやふかむ もみじのいろめづじどうしゃのうえ
九十九折 山登らひついや深む 紅葉の色賞づ自動車の上
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
そそりたつ おおいわのしゃめんところどころ はうがにもみじはえてもえおり
そそり立つ 大岩の斜面ところどころ 這ふがに紅葉生えて燃え居り
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
つたもみじ しんくのいろのひときわに めだちてやまのあきをかがよう
蔦もみぢ 真紅の色の一際に 目立ちて山の秋をかがよふ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
うすあおく なつをのこせるやまのおに ぬえるもみじのくれないのいろ
淡青く 夏を残せる山の尾に 縫へる紅葉のくれなゐの色
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
ひのてれる さんぷくおおかたきぎのいろ こきにあわきにもみずらぬなき
陽の照れる 山腹大方木々の色 濃きに淡きにもみづらぬなき
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
せんじょうが はらはうすらにきばみおり ところどころにおばなのふるえる
戦場ケ 原はうすらに黄ばみ居り ところどころに尾花のふるへる
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
みるかぎり もみじしにけりあきのきは やまよりやまにあかくうずまき
見るかぎり もみぢしにけり秋の気は 山より山に赤くうづまき
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
しらゆうの ごとくたきつせなだれにつ もみじのこのまにすけてよきかな
白木綿の 如く滝津瀬なだれにつ 紅葉の木の間に透けて美きかな
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
あやうげに かかるいわのまにもみじもえ たきのおつるがなかにかがよう
危げに かかる岩の間に紅葉燃え 滝の落つるが中にかがよふ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
なだりおつる おおたきしろくゆうやみに のこりてあきのみやまはくくるも
なだり落つる 大滝白く夕暗に 残りて秋の深山はくるるも
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
あみだもきりすともれーにんもまねーもえろもぐうぞうのそれだ
阿弥陀もキリストもレーニンもマネーもエロも偶像のそれだ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
おおぐうぞうよ たいしゅうはおまえによってこきゅうしかんきしおどっている
オヽ偶像よ 大衆はお前に依つて呼吸し歓喜し踊つてゐる
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
ぐうぞうひていしゃのいちだんが いまれーにんおぐうぞうかにあせをながしている
偶像否定者の一団が 今レーニンの偶像化に汗を流してゐる
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
おおじんるいしをかざるぐうぞう なんとかがやかしいそんざいではあるよ
オヽ人類史を飾る偶像 何と輝かしい存在ではあるよ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
ぱんとくうきがひつようのていどに ぐうぞうがにんげんにとってひつようとおもう
パンと空気が必要の程度に 偶像が人間に必要と思ふ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
ぴらみっどのせんたんのおうざは いつもぐうぞうによってしめられているではないか
ピラミツドの尖端の王座は いつも偶像に依つて占められて居るではないか
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
いけるぐうぞうとしせるぐうぞうとのさべつにんしきのめ、め、めだ
いける偶像と死せる偶像との差別認識の眼、眼、眼だ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
ぷろもぶるもしろもくろもきも いっせいにはいきするめしやてきぐうぞうをもとうよ
プロもブルも白も黒も黄も 一斉に拝脆するメシヤ的偶像を待たうよ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
しゃかもにちれんもきりすとも それはかこのしゅうきょうしてきそんざいをよりいでぬではないか
釈迦も日蓮もキリストも それは過去の宗教史的存在をより出でぬではないか
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    偶 像
きょうもんもせいしょもしほんろんもはくぶつかんのもくろくだけのそんざいでしかない
経文も聖書も資本論も博物館の目録だけの存在でしかない
世界の今 (昭和6年10月18日)   

    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
ほえてるしなよ あだむいぶのしそんがおまえをわらっているいま
吠えてるシナよ アダムイブの子孫がお前を笑つてゐる今
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
せかいいちのていこくしゅぎとぐんこくしゅぎのくに それはロシアだ
世界一の帝国主義と軍国主義の国 それは露西亜だ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
えいからごうだつされたとみをいんどがいまひがいのけいさんしょをつきつけている
英から強奪された富を印度が今被害の計算書を突きつけてゐる
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
せかいてきごうだつこくえいのとみのかんぷはじきのもんだいだろう
世界的掠奪国英の富の還付は時期の問題だらう
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
きんかほんいのじしんが せいようぶんめいほうかいののろしでなくてなんだ
金貨本位の地震が 西洋文明崩壊のノロシでなくて何だ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
こくさいれんめいとはほらのおとでおどるレヴューだんらしい
国際聯盟とは法螺の音で踊るレヴユー団らしい
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
しょうかいせきはこくさいれんめいまでのてをかりてぼけつをほっている
蒋介石は国際聯盟までの手を借りて墓穴を掘つてゐる
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
にほんのだいじんならおれでもできるとおもうひとがなんまんにんあろうことよ
日本の大臣なら俺でも出来ると思ふ人が何万人あらう事よ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
きんりゅうしつのかげでユダヤのしほんかがわらっているだろう
金流出の蔭で猶太の資本家が笑つてゐるだらう
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
まんもうをにほんにゆだねるがあんぜんであるすらかいせぬおろかなしょうかいせきではある
満蒙を日本に委ねるが安全であるすら解せぬ愚な蒋介石ではある
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    世界の今
そうりだいじんわかつきれいじろうかっかがこぞうのようにとびまわっている
総理大臣若槻礼次郎閣下が小僧のやうに飛び廻つてゐる
瑞光和歌第3回 昭和6年10月20日
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    紅 葉
いさぎよく あきをもみじのもえさかり たちまちにいるはいいろのふゆ
いさぎよく 秋を紅葉の燃えさかり たちまちに入る灰色の冬
瑞光短歌第5回臨時歌会 昭和6年10月14日
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    日光の秋
なみならぬ さんしすいめいにっこうは かんのんましますふだらかのやま
なみならぬ 山紫水明日光は 観音在ます普陀羅迦の山
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
つきかげは よせくるなみのいくえにも いくえにもおりこまれおり
月光は よせくる波の幾重にも いくへにも織込まれ居り
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
つきかげか もやのいろかはしろじろと もりをつつみてただよいわたる
月光か 靄の色かは白々と 森をつつみてただよひわたる
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
さよふけの ほどうにいちょうのかげながく つきのひかりのあおじろくながるる
小夜更けの 舗道に銀杏の影長く 月の光の青白く流るる
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
いけにうつる つきにかかりてはぎのえの くろくしだるるふぜいみており
池にうつる 月にかかりて萩の枝の 黒くしだるる風情見て居り
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
まるまどを さすつきかげにひをけせば くろわぬこずえたたみにうつれり
丸窓を 射す月光に灯を消せば 黒はぬ梢畳に映れり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
ゆうあかり のこるにあらでやまのはに いでしばかりのみかづきのかげ
夕明り 残るにあらで山の端に 出でしばかりの三日月の光
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
さえわたる まんげつのかげのにてりて えいがのつきのばめんしのべり
冴え渡る 満月の光野に照りて 映画の月の場面偲べり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
あかつきの みちにひびかいくるまゆく うえにはあわくそらにつきあり
暁の 路に響かひ車行く 上には淡く空に月あり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
ゆうぐれに すすきののみちゆくともと つきのあらばとかたりあいけり
夕暮に 芒野の路行く友と 月のあらばと語り合ひけり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
つきさえて しろめくにわにうすあかく ひゃくじつこうのはなのあかるき
月冴えて 白めく庭に淡紅く 百日紅の花の明るき
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
つきかげは いけになごみてほのしろく ただようなかにすいれんのはな
月光は 池に和みてほの白く 漂ふ中に水蓮の花
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
ちぎれぐも うごかずみえてかげさゆる つきもうごかぬしばしのそらかな
ちぎれ雲 動かず見えて光冴ゆる 月も動かぬしばしの空かな
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
ばんしゅうを つきのこよいにわびしみて しばもありやとのをさまよいぬ
晩秋を 月の今宵にわびしみて 芝もありやと野をさまよひぬ
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
はぎすすき みなそなわりてこのあきの つきてるにわをわれたらわえり
萩芒 みな具はりて此秋の 月照る庭をわれ足らはへり
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
かわのえに けぶるがごとくつきかげの ながれてはしのうえにひとあり
川の上に けぶるが如く月光の 流れて橋の上に人あり
瑞光第6回歌会詠草 昭和6年10月6日
    「瑞光」 1-6 S 6.11. 1    月
まどらなる つきのおもてやそのひかり あおげばなやみのとけてゆきけり
円らなる 月の面や其光 仰げば悶々の解けてゆきけり

昭和6年11月集   
    「明光」63号 S 6.11. 1    世の転換期
もほうからそうぞうへのてんかんき こうせいにほんのとうぜんすぎるなやみ
模倣から創造への転換期 更生日本の当然すぎる悩み
    「明光」63号 S 6.11. 1    世の転換期
げんぜんとせつりがうごいている あるひとにはひにくにあるひとにはかいてきに
厳然と摂理が動いてゐる 或人には皮肉に或人には快適に
    「明光」63号 S 6.11. 1    世の転換期
むしのくってるぶってんとせいしょで ほうかいきをのばさんとするしゅうきょうか
虫の喰つてる仏典と聖書で 崩壊期を延さんとする宗教家
    「明光」63号 S 6.11. 1    世の転換期
たいしゅうのぼんがんにかっさいされるせいじが たいしゅうじしんをならくへおとしてゆく
大衆の凡眼に喝采される政治が 大衆自身を奈落へ落してゆく
    「明光」63号 S 6.11. 1    世の転換期
てんをみろどこにあんえいがある ちをみろどこにちんたいとたいだがある
天を観ろ何処に暗影がある 地を視ろ何処に沈滞と怠惰がある
    「明光」63号 S 6.11. 1    世の転換期
ぐうぞうをひていしてじさつするひとと ぐうぞうにはいきしていきるひととがある
偶像を否定して自殺する人と 偶像に拝脆して生きる人とがある
明光本社第57回月並和歌 昭和6年9月22日
    「明光」63号 S 6.11. 1    故 郷
なつかしき おもいかようもあやのちは わがたましいのふるさとにして
なつかしき 思ひ通ふも綾の地は わがたましひの故郷にして
    「明光」63号 S 6.11. 1    故 郷
さんぜんねんの つきひもいつかふるさとの あやのたかまにかえりますおや
三千年の 月日もいつか故郷の 綾の高天にかへります祖
    「明光」63号 S 6.11. 1    故 郷
いくとせを ふるさとにいまみるのやま むかしながらもうつろいぬわれ
幾年を ふるさとに今見る野山 昔ながらもうつろひぬ吾
    「明光」63号 S 6.11. 1    故 郷
とつくにの おしえはやがてふるさとへ かえりてかみのしらすかみぐに
外国の 教はやがて故郷へ かへりて神のしらす神国
    「明光」63号 S 6.11. 1    故 郷
ふるさとの あやのたかまのりゅうぐうへ しょぜんてんにんかえりますいま
ふるさとの 綾の高天の龍宮へ 諸善天人帰ります今
    「明光」63号 S 6.11. 1    雑 詠
やまのきり うすれておもわぬそらのかた あまつびのかげあわくただよう
山の霧 うすれておもはぬ空の方 天津日の光淡くただよふ
    「明光」63号 S 6.11. 1    雑 詠
さしまねく つきにほのぼのひんがしの くものきざはしのぼるあさひこ
さしまねく 月にほのぼの東の 雲のきざはし昇る朝日子
    「明光」63号 S 6.11. 1    雑 詠
やまかいを こめしさぎりのそこいより かすかにひびかうせせらぎのおと
山峡を こめしさ霧の底ひより かすかに響かふせせらぎの音
    「明光」63号 S 6.11. 1    雑 詠
やまのゆに つかりてうつろごころなる みみにしぜんのこえをきくかな
山の湯に つかりてうつろ心なる 耳に自然の声をきくかな
    「明光」63号 S 6.11. 1    雑 詠
こだわりも なげなるすがたすくすくと まなつのそらにのびゆくきぎなり
こだはりも なげなる姿すくすくと 真夏の空にのびゆく樹々なり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
つくばやま ふたつのみねはあおぞらに うすくれないのきょくせんひきおり
筑波山 二つの峰は青空に うすくれなゐの曲線引き居り
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
あきのやま ふたつにわけてあおぞらに いたるけーぶるかーのれーるよ
秋の山 二つに分けて青空に 到るケーブルカーのレールよ
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
きゅうしゅんを しずかにのぼるけーぶるの まどにやまきのしたへしたへおちゆく
急峻を 静に登るケーブルの 窓に山樹の下へ下へ落ちゆく
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
さんじょうに いずるやたちまちがんかいは さんすいあきびのしたにはろけし
山上に 出づるやたちまち眼界は 山水秋陽の下にはろけし
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
なんたいに いつけるぎそんのみほこらに  のりとそうしてしょうしょうとりけり
男体に 斎ける岐尊の御祠に 祝詞奏して小照撮りけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
かんとうの へいやがんかにちずのごと ひろごりすえにあきがすみたつ
関東の 平野眼下に地図の如 ひろごり末に秋霞立つ
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
しろきみち うねりてたはたこむらなど しばしをあかずながめておりけり
白き道 うねりて田畑小邑など しばしを倦かず眺めて居りけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
きがんかいせき かずのおおきもげざんろは きょうつきやらぬいっこうのひとびと
奇巌怪石 数の多きも下山路は 興尽きやらぬ一行の人々
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
あまのいわと たかあまはらやべんけいの ななもどりなどめいしょかずあり
天の岩戸 高天原や弁慶の 七戻りなど名所数あり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
つくばねに あきのはれひをゆくりなく さわがしきよをそとにあそべり
筑波根に 秋の晴日をゆくりなく 騒がしき世を外に遊べり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
はてもなに ひろごるたはたあきにして つくばをしゃそうにちいさくみいでぬ
涯もなに ひろごる田畑秋にして 筑波を車窓に小さく見いでぬ
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
よびかくる らしげにあきのつくばやま いただきもえてわがまえにたち
呼びかくる らしげに秋の筑波山 いただき燃えてわが前に立ち
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
みやしろに さいしてあおげばつくばやま いましくれなうふたつのみねかな
神社に 賽して仰げば筑波山 今しくれなふ二つの峯かな
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
しずしずと きゅうしゅんのぼるけーぶるの しゃそうにかわるやまのふうしゅよ
しづしづと 急峻登るケーブルの 車窓にかはる山の風趣よ
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
いこいける きていにめじのはろけくも かんとうへいやはあきびにねむれる
憩ひける 旗亭に目路のはろけくも 関東平野は秋陽に眠れる
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
ちぎたかき なんたいじんじゃにとなりして ようかんありぬそっこうじょなる
千木高き 男体神社に隣して 洋館ありぬ測候所なる
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
いわのまに もろきもみずりやまのきの すめるがなかにひにかがやける
岩の間に 諸木もみづり山の気の 澄めるが中に陽にかがやける
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
きがんやら かいせきやらのげざんじに たたえもやまずあせわすれけり
奇巌やら 怪石やらの下山路に 称へもやまず汗忘れけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    筑波根の秋
ゆうがらす なくねをあとにつくばやま ふりみふりみつきしゃにのりけり
夕鴉 啼く音を後に筑波山 振り見ふりみつ汽車に乗りけり
筑波紀行 (昭和6年11月1日)
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
くれないの うるしひともとひにあおき こまつばやしのなかにめだつも
紅の 漆一本陽に青き 小松林の中に目立つも
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
いかにして ねづきたるにやあかつちの しゃめんにまつおいややにおおきも
いかにして 根づきたるにや赤土の 斜面に松生ひややに大きも
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
かりいねの ほやまほがきやおちこちに めじのかぎりにみゆるあきのた
苅稲の 穂山穂垣や遠近に 目路の限りに見ゆる秋の田
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
うすきいろに あきはただよいほかりごの たのもはろけくしゃそうにゆれにつ
淡黄色に 秋はただよひ穂苅後の 田の面はろけく車窓にゆれにつ
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
まだらばの こだちさびしくあぜみちの かりたのすめるみずにうつろう
斑葉の 木立淋しく畔路の 苅田の澄める水にうつろふ
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
おくいねの たるほのたのもそこここに きわめきたてるあきのいろかな
奥稲の 垂穂の田の面其処此処に きわめき立てる秋の色かな
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
かりほだの みずさやかにもあきぞらの ひかげうつしてしずかなりけり
苅穂田の 水さやかにも秋空の 陽影うつして静かなりけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
かれのこる はすだはむごしくきおれて はのおおかたはみずのなかなる
枯残る 蓮田はむごし茎折れて 葉の大方は水の中なる
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
いねをかる たびとらあきびのしたにして みやこのわれらのめにのどかなる
稲を苅る 田人等秋陽の下にして 都のわれ等の目に長閑かなる
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
もみじせる さくらつづみのうすきばむ たのもへだててかがよいており
紅葉せる 桜堤の薄黄ばむ 田の面へだてて輝ひてをり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
まばらして くわのはのいろあおぐろく このはたけにもあきのふかめり
まばらして 桑の葉の色青黒く 此の畑にも秋の深めり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
かれくさの つづらうなかのだいこばたけの ひとりつややにあおあおしもよ
枯草の つづらふ中の大根畑の ひとりつややに青々しもよ
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
はるかにも もりありしるくあおぞらに ふくざつのせんえがいておりけり
遥かにも 森ありしるく青空に 複雑の線描いてをりけり
   「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
こんもりと うすくれなえるはのまじり こだちのみえぬおくてだのなか
こんもりと 薄紅へる葉の交り 木立の見えぬ奥稲田の中 
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
おくてだや かりたやもろこしのひといろに そみてさびしくあきのただよう
奥稲田や 苅田やもろこしの一色に 染みて淋しく秋のただよふ
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
あおぞらは かぎりもしらにもろこしの いろひららかなうえにすめるも
青空は 限りもしらにもろこしの 色ひろらかな上に澄めるも
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
まつやまの おだかきありてしゃめんには あきのまひるのひかげけぶらう
松山の 小高きありて斜面には 秋の真昼の陽影けぶらふ
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
いっけんの でんかのかたわらきくさいて まきなるいろのひにはえており
一軒の 田家の傍菊咲いて 真黄なる色の陽に映えてをり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    車窓の秋
やますそに しらかべみつよつひにはえて たのもにあきはたけにつつあり
山裾に 白壁三つ四つ陽に映えて 田の面に秋はたけにつつあり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
まつのみの あおきはいろのめだちにつ おかもののももふゆとなりけり
松のみの 青き葉色の目立ちにつ 丘も野の面も冬となりけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
ひっそりと たにもあぜにもひとけなく のこるかりほにうすびさしおり
ひつそりと 田にも畔にも人気なく 残る刈穂に淡陽さしをり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
かりほだを かれしこみちのつづらえる すみきるみずにさむざむうつるも
刈穂田を 枯れし小径のつづらへる 澄みきる水に寒々うつるも
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
したしみつ ひおけにそえるてのこうに ちからもなげにはえのとまれる
親しみつ 火桶に添へる手の甲に 力もなげに蝿のとまれる
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
あわびさす はりどにちかくぺんとれど こわばりがちのてにてありけり
淡陽さす 玻璃戸に近くペン採れど こはばり勝の手にてありけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
さらりーまん おおきらしきもあさでんしゃ おのもおのもにいきしろくはくも
サラリーマン 多きらしきも朝電車 己も己もに息白く吐くも
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
しいのはの つやなきうえににびいろの ひのさしつちにもれておりけり
椎の葉の つやなき上に鈍色の 陽のさし土に洩れて居りけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
ねぐらへと いそぐからすのかげしるく うつるいけのもにかれもうきおり
塒へと 急ぐ烏の影しるく うつる池の面に枯藻浮きをり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
にわぎくの はかなくかれぬいちにりん ちさきにしばしめをやりており
庭菊の はかなく枯れぬ一二輪 小さきに暫し眼をやりてをり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初冬詠草
かきのはの かぞえるばかりのえだへだて たけのはやしにそらすきてみゆる
柿の葉の 数へるばかりの枝へだて 竹の林に空透き見ゆる
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
あちこちと おちばささやきあうがにて きぎのしたかげかぜふきぬくる
あちこちと 落葉囁き合ふがにて 木々の下かげ風吹きぬくる
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
へんぺんと ほそうろのうえまいくるう おちばのたまるひとところあり
片々と 舗装路の上舞ひ狂ふ 落葉のたまるひと処あり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
ふみならし おちばつづかうこのもりの みちのはてなにさびしかりけり
踏み鳴らし 落葉つづかふ此森の 径のはてなに淋しかりけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
いくひかさね おちばのうめしかれくさの ほのみのみゆるはやしのしたかげ
いく日かさね 落葉の埋めし枯草の 穂のみの見ゆる林の下かげ
   「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
ふかぶかと いくとせつめるおちばにや このやまこみちあしあとみえず
深々と いくとせ積める落葉にや 此山小径足跡見えず
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
きよめられし つちのもにしておおいなる かきのわくらばみつよつちりおり
清められし 土の面にして大きなる 柿のわくらば三つ四つ散り居り
     「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
まあかなる もみじのおちばいけのもに そよろのかぜにすこしゆらぎおり
真紅なる もみぢの落葉池の面に そよろの風に少し動ぎをり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
むざんにも よあらしふきてまだありし にわのもみじのおおかたちりけり
無惨にも 夜嵐吹きて未だありし 庭の紅葉の大方散りけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
あさじめりの このまをゆけばふむごとに しもおくおちばかさこそとなる
朝じめりの 木の間を行けば踏む毎に 霜おく落葉かさこそとなる
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
あすふぁるとの つじにおちばのうずまいて こがらしのなかいぬはしりゆく
アスファルトの 辻に落葉のうづまひて 木がらしの中犬走り行く
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
つちふむと おもえぬばかりふかふかと たにのみぎわのおちばせるみち
土踏むと 思へぬばかりふかふかと 渓の汀の落葉せる路
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
へいぎわや このあきをちりしくさぐさの おちばわくらばうづたかまれる
塀際や 此秋を散りしくさぐさの 落葉わくら葉堆高まれる
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
みずぎわに やなぎのかれはややにうき みずとりわけておよぎゆきけり
水際に 柳の枯葉ややに浮き 水鳥分けて泳ぎ行きけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
ゆうあらし ひとしきりののちつきいでて にわのおちばをしろくてらせり
夕嵐 ひとしきりの後月出でて 庭の落葉を白く照らせり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
おちばかく おのこのかたにかれまつば ゆうひのなかによくみえており
落葉掻く 男の子の肩に枯松葉 夕陽の中に能く見えて居り
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落葉詠草
あくたろう いつのまにやらたたきしか ひがきのもとのあおおちばかな
悪太郎 いつの間にやら叩きしか 檜垣の下の青落葉かな
瑞光社第7回歌会 昭和6年11月6日
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    初 冬
はだかぎの ふゆにかえればはるやなつ あきのよそいもゆめなりにけり
裸木の 冬に還れば春や夏 秋の粧ひも夢なりにけり
瑞光和歌第4回 昭和6年11月10日
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    雀
ゆきのもに ゆらぐものありこたつにい はりどすかせばすずめにてあり
雪の面に 動ぐものあり炬燵に居 玻璃戸すかせば雀にてあり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    雀
どっとふく かぜにこのはのまうがごと とおぞらにむるるすずめありけり
どつと吹く 風に木の葉の舞ふが如 遠空に群るる雀ありけり
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    雀
すずめらの こえようやくにかしましく まどのあたりのうすらあかるる
雀らの 声やうやくにかしましく 窓のあたりのうすら明るる
瑞光短歌臨時歌会 昭和6年11月20日
    「瑞光」 1-7 S 6.12.15    落 葉
いちようの くちばをとればげんとして りんねののりをかたりておりけり
一葉の 朽葉を取れば厳として 輪廻の則を語りて居りけり
昭和6年12月集
    「明光」64号 S 6.12. 1    終末期
ばくはつするいっぷんまえのやまのすがたは つねとかわらぬめいびさをたもっている
爆発する一分前の山の姿は 常と異らぬ明媚さを保つてゐる
    「明光」64号 S 6.12. 1    終末期
ぶきみなくうきがつなみのはやせかいをのもうとしているいま
無気味な空気が海嘯の迅さで世界を呑まうとしてる今
    「明光」64号 S 6.12. 1    終末期
こんめいあえぎじき そのかおそのめおれはもうせいしにたえない
昏迷喘ぎ自棄 其顔其眼俺はもう正視に堪へない
    「明光」64号 S 6.12. 1    終末期
ききがにほんを おれたちのにほんをおそうているげんじつ
危機が日本を 俺達の日本を襲うてゐる現実
    「明光」64号 S 6.12. 1    終末期
ほうかいせんにいっぽのちてんまでおされて どうにもならなぬせかい
崩壊線に一歩の地点まで押されて どうにもならぬ世界
    「明光」64号 S 6.12. 1    終末期
ふけ あんこくにほうこうするみんしゅうにむかってうんとしんぐんのラッパしゅよ
吹け 暗黒に彷徨する民衆に向つてうんと神軍の喇叭手よ
    「明光」64号 S 6.12. 1    終末期
きたるべくしてしゅうまつはきた きょうしゃとそしてかみにそむけるものに
来るべくして終末は来た 強者とそして神に背ける者に
    「明光」64号 S 6.12. 1    終末期
せいさんきのどうようのなかで なんとほがらかであることよわれらは
清算期の動揺の中で 何と朗かである事よ吾等は
明光本社第58回月並和歌 昭和6年10月26日
   「明光」64号 S 6.12. 1    秋の季
さやかなる あきのたいきのなかにいて あおずむそらにわれをすわるる
さやかなる 秋の大気の中にゐて 青ずむ空に吾を吸はるる
    「明光」64号 S 6.12. 1    秋の季
むしのねは やみにながれてしずかなる このよいあきになつかしみおり
虫の音は 闇に流れて静なる この宵秋になつかしみ居り
    「明光」64号 S 6.12. 1    秋の季
かんらくの ゆめのあとなるじょうしにも にてわびしけれあきのののおも
歓楽の 夢の跡なる情史にも 似てわびしけれ秋の野の面
    「明光」64号 S 6.12. 1    秋の季
にぶいろの ゆうひのうえをあかとんぼ むれのながれのはてしなげなり
にぶ色の 夕陽の上を赤蜻蛉の 群の流れのはてしなげなり
    「明光」64号 S 6.12. 1    秋の季
なつのゆめ あおくながるるののおもは ふるあきさめにきばみだちけり
夏の夢 青く流るる野の面は 降る秋雨に黄ばみ立ちけり
    「明光」64号 S 6.12. 1    雑 詠
ゆうもやを ゆるがせかものまいたちて つきのおもてをかすめきえけり
夕靄を ゆるがせ鴨の舞ひ立ちて 月のおもてをかすめ消えけり
   「明光」64号 S 6.12. 1    雑 詠
むらさきの くものとばりにひかりひそめ あかつきをまたすあまつひのかみ
紫の 雲の帳に光りひそめ 暁をまたす天津日の神 
    「明光」64号 S 6.12. 1    雑 詠
きしにそい いわがねよけてながれくる みずのやさしきさがをおもえり
岸に添ひ 岩ケ根よけて流れくる 水のやさしき性をおもへり
    「明光」64号 S 6.12. 1    雑 詠
おのこわれ かみのいくさにたちむかう そのたまゆらにあいのわきくる
男の子われ 神のいくさに立ち向ふ そのたまゆらに愛の湧きくる